スペインの詩人。セビリャに生まれ,父は民俗学者。19世紀末および20世紀初めのマドリード,パリでボヘミアン的生活を送り,〈98年世代〉〈モデルニスモ〉の作家,知識人に接する。処女詩集《寂寞(せきばく)》(1903)とその改訂増補版《寂寞,回廊,その他の詩》(1907)には,モデルニスモ的なイメージもみられるが,基調はじみでかげりを帯び,形式や感覚を重視するR.ダリオらとは異なる内観的態度がすでに現れている。通底するテーマは〈時間〉〈記憶〉で,彼のすべての作品に響く〈時計の音〉は容赦なく流れゆく時間の暗喩であり,その音から逃れうる唯一の手段は〈夢みること〉である。時間に関する彼の考え方は,1910年にパリでベルグソンの講義を聴いたことにより,いっそう明確となる。代表作《カスティリャの野》(1912)では,視線を魂の内側から風景,人間,歴史へと転じ,とりわけカスティリャの外的風景を通じて,〈98年世代〉の特徴,没落したスペインの現実の考察を行う。17年の増補版では,妻の死をテーマとする作品や祖国再生のテーマを簡素で力強い民衆詩ロマンセの形式を用いてうたう《アルバル・ゴンザレスの地》が加えられる。晩年は哲学的考察を深め,《新しき誌》(1924)にみられるような箴言を生む。散文作品には,架空の詩人に託した詩論,兄マヌエルとの合作による戯曲がある。スペイン内乱後,亡命先の南フランスのコリウールで病没。
執筆者:野谷 文昭
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スペインの詩人。セビーリャに生まれ、マドリードに移り教育を受ける。一時パリにも滞在。処女作『孤独』(1903)は甘美な世紀末的憂愁と近代主義(モダニズム)の影を残す。これは1907年『孤独、回廊、その他の詩』(邦訳『寂寞』)と改訂される。いっさいの装飾性を去り、「精神の深い鼓動」に耳を傾ける詩人の姿勢がある。同年カスティーリャ地方のソリアにフランス語教師として赴任、まもなく結婚。代表作『カスティーリャの野』(1912)の契機となった。荒涼とした風景、それに投影されるスペインの運命、妻との愛と死別の苦悩が荘重な叙情の調べで歌われる。『新詩集』(1924)は民衆詩の短句型を用いて、内的省察を表現、新しい詩境を開いた。ほかに2人の仮想の詩人、哲学者に擬した内省的散文集と兄マヌエルとの合作になる数編の韻文劇がある。36年のスペイン内戦では共和政府側につき、難民とともに国境を越え、39年亡命先の南フランス、コリュールで生涯の幕を閉じた。スペインで最高の詩人の1人に数えられる。
[有本紀明]
『鼓直訳『寂寞』『カスティーリャの野』(『世界名詩集大成14 南欧・南米』所収・1962・平凡社)』
スペインの詩人。セビーリャの生まれ。アントニオ・マチャードの兄。大学で文学を専攻、マドリード、パリで文学的ボヘミアン生活も経験している。早くからアンダルシアの民衆性と優美さに根ざした詩を書いている。彼の詩の洗練された貴族的雰囲気はフランスの象徴主義、さらに当時一世を風靡(ふうび)していた近代主義(モダニズム)の影響による。『たましい』(1900)、『カンテ・ホンド』(1921)はその代表的な例。多彩な歴史、芸術に題材をとる詩も含め、彼の作品はその軽やかさと感覚性だけで評価されがちだが、背後にある、とくに後年の深い思索的傾向も考慮されねばならない。ほかに弟アントニオとの合作による『ラ・ローラは港へ』(1930)など数編の韻文劇がある。アカデミー会員。
[有本紀明]
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…なお19世紀も末になるとフランスの自然主義が移入され,E.パルド・バサン,クラリンClarín(1852‐1901),V.ブラスコ・イバーニェスらがすぐれた作品を残した。
【〈98年世代〉から〈27年世代〉へ】
1898年の米西戦争の敗北で祖国が最後の植民地を失ったとき,スペインの後進性を痛感し,苦悩のうちに未来を模索した作家たちを〈98年世代〉と呼ぶが,その中心となったのは《生の悲劇的感情》で理性と信仰の葛藤を論じ,それをヨーロッパとスペインとの関係にまで広げたM.deウナムノ,古典文学の再評価を通してスペインの魂を探求したアソリン,スペイン文学史上最も完成された小説家のひとりに数えられるP.バローハ,詩集《カスティリャの野》で,荒涼としたカスティリャの風景の観照を通してスペイン(人)の本質をさぐったアントニオ・マチャードらである。概してペシミズムを基調とし,真のスペインを発見しようとした〈98年世代〉に対し,ヨーロッパの思想に沿おうとした知識人たちを20世紀の〈第2の世代〉と呼ぶ。…
※「マチャード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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