代表的動物性香料の一つ。アンバーグリスambergrisともいう。マッコウクジラの腸内の病的結石様の分泌物で,アフリカ,インド,スマトラ,ニュージーランド,ブラジル,日本などの海上に浮遊し,または海岸に打ち上げられたものを採取したところから,この名称がある。長期間海上に浮遊し,夾雑物の少ないものは,コハクに似た帯黄灰色goldenで高級品とされ,そのほか灰色gray,クジラの腸内から採取乾燥した黒色blackの等級がある。形状は蠟状またはピッチ状の団塊。水に難溶で,アルコールに溶ける。未精製の竜涎香は必ずしもよい香りではないが,乾燥し乳糖を加えてアルコールに浸漬した浸出液は温和な乳香に似たバルサム臭があり,古来香料原料として重用される。
竜涎香の主要な成分は,トリテルペンであるアンブレインambreinで,それ自身は無臭の非揮発性の白色固体で,保留性に強く,むしろ保留剤として重用されるが,これが酸化されて生じる各種生成物が竜涎香の芳香の原因となる。このため,竜涎香は調香上レシデュー・ノートresidue note(調合香料の基礎となるもの)としても重要な役割をはたす。
竜涎香の成分としては,そのほかオキサイドC13H22O,オキシアルデヒドC17H20O,ケトンC13H20O,コハク酸,安息香酸なども認められている。捕鯨の盛んな日本,旧ソ連が主要生産国であったが,マッコウクジラの減少,捕獲の禁止等から,その生産量は激減している。近年はアンブレイン酸化物の合成が行われている。
執筆者:内田 安三
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…脂皮は採油原料と食用に,肉は食用に,歯は工芸用に,千筋はテニスのラケット用として利用された。竜涎香(りゆうぜんこう)は本種の大腸からまれに出る病的生成物で香料原料となる。クジラ【粕谷 俊雄】。…
※「竜涎香」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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