日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際資本移動」の意味・わかりやすい解説
国際資本移動
こくさいしほんいどう
international capital movement
国際間での有価証券の売買、資本の貸借、そのほか債権・債務に関係のある資本取引に伴う資本の移動をいう。国際間で移動する資本は長期資本と短期資本とに分けられる。一般的にいってこの区別は、資本供給者側からみれば、短時間内に損失なしに引き揚げうる資本が短期資本であり、損失なしに随時に引き揚げることのできない資本が長期資本である。資本の需要者からみれば、短期資本は金融的流通だけにとどまるものであり、長期資本は産業的流通に用いうるものである。
[相原 光]
資本移動の形態
国際資本移動の具体的形態としては、次のようなものがあげられる。
短期資本移動としては、外国短期証券への投資、外国金融市場における銀行引受手形の買入れ、コールローン、外国為替(かわせ)手形の買入れ、外国輸入商への短期信用の供与、外国銀行への預金、外国貨幣の保蔵などがある。
長期資本移動としては、投資者が直接外国で営業を行う場合の直接投資と、外国会社の株式・公社債の売買という証券投資(これを間接投資ともいう)とがある。
直接投資と間接投資が本質的に異なる点は、まず第一に、直接投資は経営の支配を伴うのに対して、間接投資は支配を伴わないことである。支配というのは、株式を所有するという法律的意味と、経営上の意思決定――すなわち、投資家が海外経営に関し最高人事、研究開発、新製品の発売、配当などに関する決定権――を握るという二つの意味をもつ。第二は、直接投資は間接投資と異なって、投資企業の生産技術、販売技術などの経営資源を国際的に移動させ、これを利用して企業活動を行うことをかならず伴っていることである。
以上は民間の国際資本移動の形態であるが、第二次世界大戦後の国際資本移動の顕著な現象として公的資本移動(政府投資)の増大があげられる。それは、国際収支が困難に陥っている国の救済、プラント・船舶類の貿易のように巨額な支払いを要するものの延払いのための信用供与、発展途上国のための開発援助のような、民間資本では満たしにくい目的のために公的資本の移動が要求されるからである。公的資本移動は、各国政府間で直接取引される2国間の公的援助と、国際復興開発銀行(世界銀行)、国際開発協会(第二世銀)などのような国際機関、アフリカ開発銀行、米州開発銀行、アジア開発銀行などのような地域的開発機関を経由する場合とがある。
[相原 光]
資本移動の誘因
民間資本移動の誘因には次のようなものがある。すなわち、短期資本の場合には、為替相場・利子率の国際的不均衡、あるいは変動の見込みに対応して移動するものと、資本の価値の安全を図り危険を回避するために行われる資本逃避とがある。これらはいずれも投資家が主体的に資本を移動させるものであるから自発的資本移動といわれ、これに対し、国際収支のほかの項目、たとえば長期資本移動や貿易に伴って行われる短期資本移動を誘発的資本移動という。長期資本の場合には、国際間の利潤率・利子率の差により、低利潤・低利子率国から高利潤・高利子率国へと移動する。直接投資の場合にも、資源や労働力、あるいは市場を確保しやすく、経営資源がより高い利潤をあげうる国へ移動するのである。同じ工業国間でも、その経営資源は異なるから、工業国間相互の国際資本移動もおこりうる。
公的資本移動の場合には、国際機関を中心とする国際協力を進めるためのもの、外交上、政治上の要因に基づくもの、輸出促進や原料確保など経済政策の一環として行われるもの、などがある。
[相原 光]
マクロ経済と国際資本移動
国際間の財、サービスの輸出入収支である経常収支は、政府財政収支が均衡、外貨準備が増減なしと仮定すると、貯蓄と投資の差額に等しい。つまり、経常収支=貯蓄-投資が成り立つ。経常収支が黒字であれば、貯蓄は投資を上回り、その差は海外に投資されることになる。逆に経常収支が赤字であれば、国内は貯蓄不足で、外国からの投資の流入でそれを埋め合わせる。このように、たとえ日本の民間資本個々の国際投資の流れは外国への投資と外国からの投資の受入れとが交錯していても、マクロ的にみれば国際資本移動は一国とほかの国との間の財、サービスの移転を通じて、貯蓄と投資のアンバランスを埋め合わせるという機能を果たしているのである。
[相原 光]