日本大百科全書(ニッポニカ) 「マートン」の意味・わかりやすい解説
マートン(Robert King Merton)
まーとん
Robert King Merton
(1910―2003)
アメリカの社会学者。フィラデルフィアに生まれる。テンプル大学からハーバード大学に進み、1936年に博士号を取得。同大学助教授を経て、1941年コロンビア大学に移り、1947年に社会学の主任教授となり、同時に同大学の応用社会調査研究所で中心的役割を果たした。1957年にアメリカ社会学会の会長に就任。
ヨーロッパ社会学、とくにデュルケーム、ジンメル、M・ウェーバーらの理論を批判的に摂取しつつ、理論社会学を追究しながらも、経験的調査に深い関心を寄せ、理論と調査との相互作用を通じて十分に経験科学的な根拠をもつ「中範囲の理論」の樹立を提唱した。そして、現段階では一挙に包括的な一般理論を求めても非現実的で不毛なものになってしまうので、一定範囲の社会学的データに適用しうる経験的に確実性の高い中範囲命題の積み重ねにより、理論を累積的に前進させていくことが重要だと説いた。この見地から、潜在的機能および逆機能の概念をたてて古典的機能主義理論の限界を克服する一方、社会構造論、準拠集団論、官僚制とパーソナリティー、逸脱行動とアノミー、勢力研究、知識社会学、科学の社会学、マス・コミュニケーションと宣伝、階級動態などの諸分野で水準の高い優れた成果をあげた。主著『社会理論と社会構造』(1949)のほか多数の著作がある。後進の指導にも努め、アメリカ社会学界に重きをなすバーバーBernard Barber(1918―2006)、ブラウPeter Michael Blau(1918―2002)、ゴールドナー、ゼッターバーグHans Lennart Zetterberg(1927―2014)など多くの研究者を育てた。
[森 博 2018年11月19日]
『森東吾・森好夫・金沢実・中島竜太郎訳『社会理論と社会構造』(1961・みすず書房)』▽『R・K・マートン著、森東吾・森好夫・金沢実訳『社会理論と機能分析』(1969/復刻版・2005・青木書店)』
マートン(Robert C. Merton)
まーとん
Robert Cox Merton
(1944― )
アメリカの金融学者。ニューヨークに生まれる。1966年にコロンビア大学で数理工学の学士号、1967年にカリフォルニア工科大学で応用数学の修士号を取得し、1970年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学の博士号を取得。P・A・サミュエルソンの助手としてMITで経済学を教え、MIT教授ののちハーバード大学教授となる。1997年に、「株式オプションの価値を示す画期的な公式を発見するとともに、デリバティブ(金融派生商品)の価格形成理論の構築に貢献」したとして、M・S・ショールズとともにノーベル経済学賞を受賞した。
ショールズとフィッシャー・ブラックFischer Black(1938―95)によって1973年に発表された株式オプションの価格決定式である「ブラック‐ショールズ方程式」は、数理ファイナンス、金融工学隆盛の道をひらいた。マートンはブラック‐ショールズ・モデルにおけるオプション価格の計算式を数学的に検証した。なお、マートンとショールズは、1993年に設立された大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の共同経営者として名を連ねていたが、ノーベル賞受賞の翌1998年にLTCMが破綻(はたん)し、ノーベル経済学賞のあり方も含め議論をよんだ。
[金子邦彦]