日本大百科全書(ニッポニカ) 「かつお節」の意味・わかりやすい解説
かつお節
かつおぶし
主としてだしをとるのに使う日本特有のカツオの薫乾品。これに似たものは『古事記』にも記載があるほど古くからつくられていたが、江戸時代に盛んに製造されるようになった。
[金田尚志]
製法
カツオの頭部、内臓を切り取り、三枚におろす(身割(みわ)り)。左右両側の肉からつくった節を亀節(かめぶし)という。体重3キログラム以上の大形のカツオは背と腹の2部分に分ける。背肉からつくる節を雄節(おぶし)(または背節(せぶし))、腹肉のほうは雌節(めぶし)(または腹節(はらぶし))という。これらは亀節に対し本節(ほんぶし)ともいう。切ったカツオは籠(かご)に並べ(籠立て)、籠ごと釜(かま)に入れて90~95℃で約1時間煮熟する。これを放冷し、骨や皮の一部をはぎ取り、80~100℃の炉に入れて1時間ぐらい焙乾(ほうかん)する(一番火)。これはなまり節といい、このまま市場へも出される。一番火の終わったもので傷のあるものは、背骨などについた肉を集めて煮熟し、よくすったものを塗り付けて修繕する。これを一夜放置すると、節の内部から水がしみ出してくるので、ふたたび焙乾し(二番火)、放置することを繰り返す。このようにして亀節では七~十番火、本節では十二~十五番火まで焙乾を続ける。焙乾を終わったものは荒節(あらぶし)とか鬼節とよばれ、表面がタールで覆われるので黒褐色を呈する。
荒節の表面を削りタール分を除いた裸節に種カビを噴霧し、1~2日、日干し後、箱に詰めて数日置くと、節の表面が湿気を帯びて柔らかくなるので、特別の小刀で表面の汚い部分を削り形を整える。これにはかなりの熟練を要するので、最近はグラインダーで削る場合が多い。整形した節は裸節(はだかぶし)とか赤はぎとよばれる。裸節は2日ほど日干したのち、カビ付け箱に密閉し、2週間ほど放置すると、節全体に青カビが生える(一番カビ)。これを1日、日干し、青カビをブラシで落とし、2回目のカビ付けを2週間行い、これを前回と同じように日干し、ついで三番カビ、四番カビを植える。四番カビのあとはカビが生えにくくなるので、四番カビの終わったものは本枯節(ほんがれぶし)として市場へ出荷される。カビの色は一番カビは青緑色だが、その後は灰緑色、淡褐色と変わる。カビはかつお節カビ、青カビ、草色カビなどが生えるのが望ましく、黄色カビ、黒皮カビなどが生えると良品を得がたい。そのため、業者は優良カビを生やすようにカビ付け箱の取扱いに注意している。カビ付けの意義については不明の点もあるが、脂肪を減少させ、清澄で特有の香味を有するだしがとれるようにするといわれている。また、優良カビが繁殖すると有害カビが繁殖しにくくなり、肉質の分解がおこらなくなるという。優良カビはタンパク質の分解力が弱く、脂肪を分解するリパーゼの働きが強い。
[金田尚志]
成分
かつお節は製造の過程で、可溶性窒素化合物が増加し、中性脂肪は減少する。またイノシン酸は増える。アミノ酸中、モノアミノ酸は減り、ジアミノ酸とくにヒスチジンが増加する。かつお節のうま味の主成分はイノシン酸およびその他のエキス分とされる。かつお節の一般成分は水分15.2%、タンパク質77.1%、脂質2.9%、糖質0.8%、灰分4.0%ぐらいである。
[金田尚志]
種類
カツオは春から秋にかけて日本の太平洋岸を北へ向かって移動する(索餌(さくじ)回遊)。そのため沿岸各地でかつお節をつくっており、それぞれの産地の名をつけ、薩摩(さつま)節、土佐(とさ)節、焼津(やいづ)節、三陸節などとよんでいる。ただし、かつお節(年産約2万トン)の90%は焼津と鹿児島でほぼ同量ずつつくられている。また4~7月ごろとれるカツオからつくる節は春節といい、脂肪が少なく品質がよい。一方、8~10月のものは秋節とよばれ、脂肪が多く品質は劣る。したがって秋つくる三陸節は薩摩節や土佐節に比べ一般に品質が劣る。もっとも、最近は鹿児島の荒節を焼津で加工することなどが行われており、かならずしも前記のことが当てはまらない場合もある。
[金田尚志]
品質
かつお節は黒褐色の特有のカビ色をしたものがよく、黒色の強いもの、黄褐色、灰褐色のものは良品とはいいがたい。持ったとき硬くて重く、打ち合わせたとき硬い余韻のあるものがよい。かつお節は虫害を受けやすいので、乾燥した場所や冷蔵庫に入れるとよい。最近は荒節や本枯節を真空包装したものが出回っているが、これはかなり保存がきく。また、削り節で色のよいものは窒素充填(じゅうてん)したもので変色しにくいが、一般に本枯節でなく荒節を削ったものなので味は一段劣る。
[金田尚志]