ミニ・コミュニケーションの日本的な略語。小雑誌、小新聞、ちらし、小出版物さらには手づくりのAV(audio visual)機器までを入れた総称。1960年(昭和35)前後の安保闘争のなかで、当初の条約批判から承認に転回したマスコミへの批判を込めて、その対極として生まれた和製英語。最初は部数も少なく、謄写版刷りで、配布範囲も限られたものだった。しかし、印刷の技術革新、軽印刷工業の発展、8ミリ映画、テープレコーダー、ビデオテープレコーダーなどの普及は、ミニコミの概念を幅広くしていった。変化は形式だけではない。表現や内容にまで及んでいる。理念、信仰、学芸を表現するのに論理や文字にかわって、イラスト、劇画などの記号が重視されるようになった。もっとも変化の激しいのは内容である。政治や社会問題から急速に日常生活に密着した食べ物、性、娯楽に移っていった。1980年代はこの日常性そのものがミニコミの内容の主流となり、政治や社会性はその奔流に押し流された時期である。20世紀の末になると、環境・消費者問題が住民のなかに定着したこと、ワープロなどの家庭への普及もあって、情報誌的なものが主流になった。
[田村紀雄]
ミニコミは時代とともに変化したが、いつの時代にも存在し、ますます重要なものになってきている。日本でいえば近代化のなかで多くの雑誌、新聞が生まれたが、マスコミとミニコミの区分は定かでなく、混沌(こんとん)と発行されていた。そのなかからマスコミが分離し、独自の分野を形成するのは日露戦争(1904~05)前後である。すなわちマスコミは産業化し、個々の雑誌、新聞は企業として成り立ち、ジャーナリズムが確立し、雑誌、新聞が商品となった時期である。当然そこに働く編集記者は賃金を受け取る勤労者になる。技術的にも輪転印刷機などの導入がみられる。このとき、このいずれの条件をも満たさないミニコミが一方に成立する。日露戦争前後に創刊されたり話題となったミニコミ(前述のように用語は未成立)は、歴史的にも水準の高いものである。『新紀元』『直言』『平民新聞』『東北評論』『上毛(じょうもう)教界月報』などが知られる。『上毛教界月報』は、群馬県安中(あんなか)教会の牧師柏木義円(かしわぎぎえん)によって創刊(1898)され、わずか600部にも満たない雑誌であったが、その影響は安中周辺にとどまらず北関東各地に及んだ。キリスト教を説くだけでなく、非戦、谷中(やなか)村問題(足尾銅山鉱毒問題)、社会主義などに言及し、発禁や罰金の処分は十数回に及んだ。とくに天皇制の過酷な抑圧に対しては勇気ある発言を繰り返している。このミニコミの非暴力不服従の柱は戦後もなくなったわけではないが、大衆社会化状況の浸透によって、発行者自身の知的ハングリーさや内向した表現意欲の減退がみられる。ミニコミづくりがホビー化し、また物質的な濫費(らんぴ)消耗の傾向もミニコミづくりに入り込んできた。
[田村紀雄]
アメリカでもベトナム戦争の終結を機に、社会批判を伴ったアングラ誌とよばれるミニコミの大半は姿を消すか、変質していった。消えた例は『フリープレス』『バーブ』などであり、変質したのは『ニューヨークポスト』などに垂直的統合(多様化の一形態)していった『ビレッジ・ボイス』である。かわって環境、ホモ、マリファナなどの問題を追及するミニコミが現れたが、全体として風俗化している。ただ日米とも、タウン誌やフリー・ペーパーにみられるような地域に根ざした情報誌的な新しいタイプのミニコミが全盛になったことである。ミニコミが、マスコミのカバーしないような小さな地域や社会集団にとっていっそう深く入ってきているという点で、オルタナティブ・メディアalternative media(もう一つの媒体)という呼び方をするようになった。おそらくミニコミ(アメリカではアングラ誌)が生まれたときと状況が変わり、ミニコミ自身も変化をしながら広がり、社会的役割も高まったことを反映して、これからはオルタナティブ・メディアという用語のほうが使われる可能性が強い。またテレマティークtélématiqueやコンピューニケーションcompunicationとよぶニューメディア革命のなかで、VTR、ビデオディスク、VRS(video response system、画像応答システム)といった新しいAV機器が、このオルタナティブなメディアに激しく入り込んでくることも考えられる。また、パソコンの普及に伴ってインターネットを利用したミニコミも盛んになっている。
[田村紀雄]
『田村紀雄編著『ミニコミの論理――「知らせる権利」の復権』(1976・学陽書房)』▽『田村紀雄著『アメリカのタウン誌』(1981・河出書房新社)』▽『丸山尚編著『ミニコミの同時代史』(1985・平凡社)』▽『田村紀雄著『アメリカの日本語新聞』(1985・新潮社)』
用語そのものは制度化・企業化したマス・コミュニケーションの反対語として,1960年の安保闘争のなかで生まれた和製英語である。当初は,手作りで部数も少ない,体制批判的な印刷物(雑誌,新聞,ビラなど)に限定されて使われていたが,語呂の良さもあって,しだいに反体制的でないもの,発行部数の比較的多いもの,視聴覚メディア(VTR,FM,ハム)によるもの,さらに集会や会話(口伝えの〈口コミ〉)をも意味するようになった。しかし,ミニコミという用語成立以前にも,マスコミとはいいにくいメディアは,すでに存在していた。
明治初期には早くも植木枝盛の《愛国志林》(1880創刊),河島伊三郎の《足尾之鉱毒》(1891)など政治や社会問題を論じる小雑誌が生まれている。雑誌や新聞を,利潤を期待する商品としてでなく,かりに頒価が示されていても,何かを訴えようとすることが主目的なら,それはミニコミといえる。その何かは,思想,学問,文学,政治,宗教,趣味その他なんであってもよい。1884年に森鷗村という栃木県藤岡町在の思想家によって発行された《文明新誌》は,近年までほとんど知られていなかったが,片山潜,田中正造らの協力により49号まで発行され,明治の体制にそむき,近代日本の工業化に疑問を投げかけた。その端的な表現が1900年の川俣事件に際し,逮捕された多数の農民や田中正造を励ますために贈った〈請願幾回無採納。民権屈辱奈難禁。一身抛去供犠牲。排毒心是祈雨心〉という漢詩であろう。とくに雑誌・新聞が産業資本として確立する明治後期には《平民新聞》《労働世界》《聖書之研究》など社会体制を批判する新聞や小雑誌群が花盛りとなる。独立不羈の知識人にとって,マス・メディアの発達は,一面その文筆生活の手段を増加させたものの,その思想,学問,文学の心髄を吐露する小雑誌はいっそう不可欠になった。またマス・メディアがその広告効果・コストのために大部数主義をとるなかで,地域社会や小都市に基盤をおく小雑誌(タウン誌)や,特定の職業,階層,集団を対象とする小雑誌の必要も求められてきた。したがって雑誌ジャーナリズムは,大部数の商業雑誌と問題や対象を限定したミニコミへの両極へと発展していくであろう。
日本の小雑誌に相当する欧米のリトル・マガジンも変容をとげてきている。たとえばアメリカでもジョン・リードを生んだことで知られる《マッセーズThe Masses》のようなリトル・マガジンは消え,かわって大学や研究機関,雑誌社など組織に属する知識人を中心とする小雑誌になってきた。そういう流れのなかで〈アングラ誌〉と呼ばれる新しいミニコミ雑誌が1960年代に雨後の筍のように生まれたが,80年代に大半が姿を消し,やはり地域誌が主流になった。小雑誌の発行そのものが,マス雑誌の時代には,困難であるがその必要性を増している。またその一方では,成長の著しい視聴覚メディアの役割が今後大きくなってくるかもしれない。
→マス・コミュニケーション
執筆者:田村 紀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…図はそうした分業(縄張り)を,概念的に示したものである。 しかし出版の機能にはマスコミ的側面のみならずミニコミ的な側面がある。ここでミニコミとは,個人的な対話や交流としてのパーソナルコミュニケーションと,マスコミとの中間のすべてをふくむ広範な領域を意味している。…
…〈大衆伝達〉〈大衆通報〉などの訳語もあるが,〈マスコミ〉という日本独特の短縮形が愛用されており,この場合情報を生産する送り手(新聞社,出版社,放送局など)をさすこともある。マスコミの特徴は,速報性,受け手の大量性,情報の流れの一方通行one‐way性などにあるが,一方,受け手の量を基準にした反対概念に和製英語の〈ミニコミ〉,マスコミの一方通行性に対して双方通行two‐way性をもつパーソナル・コミュニケーションpersonal communication,マスコミのメディアによる媒介に対しての人間の他人へ対する直接の語りかけをさす〈口コミ〉などがある。
[マスコミの理論]
ロックフェラー財団では,1939年9月から40年7月まで,ラスウェル,ラザースフェルドP.Lazarsfeld,キャントリルA.H.Cantril,リンドR.S.Lyndらの学者を集めて〈ロックフェラー・コミュニケーション・セミナー〉を開催した。…
※「ミニコミ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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