ミュッセ(読み)みゅっせ(英語表記)Alfred de Musset

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミュッセ」の意味・わかりやすい解説

ミュッセ
みゅっせ
Alfred de Musset
(1810―1857)

フランス・ロマン派の詩人劇作家、小説家。12月11日パリに生まれる。父は官吏でジャン・ジャック・ルソーの研究家でもある。アンリ4世校を抜群の成績で卒業、級友の一人でユゴーの義弟ポール・フーシェPaul Foucherを通じてロマン派の集い「セナークル」cénacleに入る。アルフレッド・タッテAlfred Tattetのような金持ちで教養あるダンディを友とし、早くから蕩児(とうじ)として知られる。1830年、18歳からの作品を集めた処女詩集『スペインとイタリアの物語』を出版。官能的、背徳的な空想力と早熟なアイロニーで「ロマン派の恐るべき子」とみなされた。同年、オデオン座での処女戯曲ベニスの夜』の初演は主演女優のミスから惨憺(さんたん)たる失敗に終わり、以後作品の舞台化を断念する。32年父を失って放蕩生活を反省、二つ目の詩集『肘掛椅子(ひじかけいす)で見る芝居』を出版するが、ここには放蕩と純粋な愛をめぐる、この作家の中心的テーマが早くも現れる。翌33年女流作家ジョルジュ・サンドを知り2人はベネチアに旅するが、この恋愛によって放蕩の習慣を断ち切ろうとした決意はむなしく、そのうえ大病にかかり、彼を看護した医師パジェルロPagelloに愛人サンドを奪われる。サンドとの仲はその後幾度か再燃したが35年最終的に決別、この不幸な恋愛は詩人の心に傷を残した。以後、女優のラシェルやアラン夫人Mme Allan、詩人のルイーズ・コレLouise Colet(1810―76)など数多くの愛人をもち、恋愛詩人としての生涯を送る。

 創作面では1834~36年ごろがもっとも稔(みの)り多く、のちに『新詩集』に収められた悲歌の傑作「夜」の四つの連作(1835~37)や「想(おも)い出」(1841)には、恋愛の苦悩にまみれながらも「幸福の追憶」という人生の至宝を手に入れるために、あくまで恋愛を追求しようとする詩人の生き方が示される。そのほか、ロマン派との決別を宣した『デュピイとコトネの手紙』(1836~37)や自伝的小説『世紀児の告白』(1836)も生まれた。戯曲では『マリアンヌ気紛(きまぐ)れ』(1833)、翌34年にはロマン派劇の最高傑作といわれる史劇『ロレンザッチョ』Lorenzaccioをはじめ『戯れに恋はすまじ』On ne badine pas avec l'amour、『ファンタジオ』が出版され、40年『喜劇と格言劇』に収められた。47年コメディ・フランセーズでのアラン夫人主演『気紛れ』Un caprice(1837)がミュッセ劇再評価のきっかけをつくり、以後彼の戯曲は次々と脚光を浴びたが、上演上の制約を無視して書かれたためにかえって新鮮で自由な詩情を保ち、今日なお魅力を失わない。52年アカデミー会員。古典的教養と心理的直観力に優れていたが、詩の分野では心情吐露を唯一の主義としたため作品の生命は早く衰え、今日ではむしろ劇作家としての評価が高い。57年5月2日パリで没。

[佐藤実枝]

『進藤誠一訳『戯れに恋はすまじ』(岩波文庫)』『小松清訳『初期詩集(抄) 新詩集(抄)』(『世界名詩集大成2』所収・1960・平凡社)』『加藤道夫訳『マリアンヌの気紛れ』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミュッセ」の意味・わかりやすい解説

ミュッセ
Musset, (Louis Charles) Alfred de

[生]1810.12.11. パリ
[没]1857.5.2. パリ
フランスの詩人,劇作家。高い文学趣味をもった家に生れ,幸福な幼年時代をおくり,ユゴーやノディエらに紹介されて,ロマン派の寵児として早くから知られた。処女詩集『スペインとイタリアの物語』 Contes d'Espagne et d'Italie (1829) のほか,劇作にも筆を染め『ベネチアの夜』 La Nuit vénétienne (30) を発表。 1833年 G.サンドと恋に落ち,戯曲『戯れに恋はすまじ』 On ne badine pas avec l'amour (34) ,『ロレンザッチョ』 Lorenzaccio (34) を完成するが,ベネチアでの悲恋に終った。以後の作風は内省的な深みを帯び,詩集『夜』 Nuits (35~37) ,自己の悲恋を題材にした唯一の小説『世紀児の告白』 La Confession d'un enfant du siècle (36) などの代表作が書かれた。ほかに,詩集『ローラ』 Rolla (30) ,戯曲『マリアンヌの気まぐれ』 Les Caprices de Marianne (33) ,『気まぐれ』 Un Caprice (37) など。

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