翻訳|mythos
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… ところで,舞台を見てそこで演じられていることに同化するには,まずそれが〈信じられるかどうか〉という,観客の内部の直観的・感覚的であると同時に知的でもある受容・参加の可能性が問題になるだろう。しかもそこで演じられている〈物語〉(アリストテレスはそれをミュトスmythosと呼んで悲劇の最重要の要素とした)が信じられるか否かだけではなく,それが信じられるような仕方で提示されているかどうかが問題になる。たとえばマラルメは,ワーグナー楽劇の作用は一種の宗教性を帯びるとして,ゲルマン民族の始原の謎を解きあかす〈神話〉とその〈形象〉へと,交響楽の始原回帰の作用に導かれて観客=聴衆が合体するのだと説いたが,このようにあからさまに宗教にとって代わる仕組みを作り出した場合でなくとも,演劇は一種の〈信仰の業(わざ)〉である。…
…ローマ人はギリシアの神々についての物語を相似たローマの神々の上に引き移すことで,そっくりこれを受け入れて,やはり文学,造形芸術の糧としたし,後のヨーロッパは大小さまざまな規模のルネサンスによって,このギリシア・ローマ神話を受け取った。その伝統の強大さの証の一つは現代西欧諸語で〈神話〉を表す言葉はことごとくギリシア語のミュトスmythosに由来することにうかがい知れる。われわれの〈神話〉の語も近代西洋語を通してのミュトスの翻訳語にほかならない。…
…彼の師プラトンは,真理究明を目ざす哲学の見地から見れば,詩文は虚妄の影に過ぎないと断じたが,アリストテレスは文学の創作と享受こそ人間の生の喜びに根ざし,あらゆる学の出発点たりうることを示す。師プラトンは,道徳的見地から見て,詩文・弁論は社会的諸悪の源泉であると批判したが,アリストテレスは,文学の魂ともいうべき人間行為の構造的把握(ミュトスmythos)こそ,人間が己の生を理解する優れた道である,という。また彼は,いかなる英知も正論も,人の心を知り己の言葉を律する法則によって語られることがなければ実践的価値を示しえない,と措定し,その法則(修辞学)の体系的解明を遂げる。…
※「ミュトス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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