日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムアッラカート」の意味・わかりやすい解説
ムアッラカート
むあっらかーと
al-Mu‘allaqāt
古代アラビアの代表的詩集。6世紀から7世紀にかけて、イスラム以前のアラビア半島西岸地方に7人の大詩人が次々に出現し、各人の「ムアッラカ」とよばれる長詩7編の集大成を「ムアッラカート」(複数形)という。各詩人の「ムアッラカ」は普通80行ぐらいの長さで、その名前の由来については多くの説がある。その一つは、当時ウカーズ(半島西岸部の町)の定期市で詩の競作会が行われ、ここでの秀作が金文字でカーバ神殿(メッカ)の壁に「吊(つ)るされる(ムアッラク)」ことになっていたからである、という。この詩集の七大詩人とは、イムル・ル・カイス、ズハイル、アムル・イブン・クルスーム、タラファ、ラビード、ハーリス・イブン・ヒッリザ、アンタラである。なお、その後さらにアーシャー、ナービガ、アビードの三詩人をこれに加えて、ムアッラカートを十大詩人集とするものもある。
しかし各詩人の「ムアッラカ」の内容はたいへんよく似ており、「カシーダ」とよばれる叙情詩の形式をとり、廃墟(はいきょ)にたたずんでかつての恋人をしのぶ句に始まり、砂漠の自然や動物を描写するとともに砂漠の旅の厳しさを訴え、アラブ人の心の広い気質などをたたえて終わるものが多い。古代アラビアには叙事詩は発達せず叙情詩から文学が生まれたとされているが、その代表的作品として「ムアッラカート」は不朽の価値をもつ。編者は不詳。
[内記良一]