精選版 日本国語大辞典 「むず」の意味・読み・例文・類語
むず
〘助動〙 (活用は「◯・◯・むず・むずる・むずれ・◯」。サ変型活用。推量の助動詞「む」に格助詞「と」およびサ変動詞「す」の付いた「むとす」が変化したもの。さらに発音の変化に従って、「んず」とも「うず」とも書かれる。動詞・助動詞の未然形に付く) 推量の助動詞。「むとす」の原義のほか、「む」とほとんど同じ意味にやや強調の気持をこめて用いられる。→む・うず。
① 話し手自身の意志や希望を表わす。…しようとしている。…するつもりだ。…したい。
※竹取(9C末‐10C初)「いづちもいづちも足の向きたらんかたへいなむず」
② 目前にないこと、まだ実現していないことについて、推量し予想する意を表わす。…だろう。きっと…であるだろう。
※竹取(9C末‐10C初)「今は帰べきになりにければ、此月の十五日に、かのもとの国よりむかへに人々まうでこんず」
④ 適当・当然の意を表わす。…するのがよい。…するべきだ。
※保元(1220頃か)中「後の御孝養をこそ能々せさせ給はんずれ」
[語誌](1)語源については、推量の助動詞「む」に古い連用形「み」を想定し、それにサ変動詞「す」の付いた「みす」から変化したものとする説もある。
(2)中古中期では、多く会話文に用いられている。「枕‐一九五」に「なに事を言ひても、そのことさせんとす、いはんとす、なにとせんとす、といふと文字を失ひて、ただ、言はむずる、里へ出でんずる、など言へば、やがていとわろし。まいて文に書いては言ふべきにもあらず」とある。
(3)「む」が撥音化して表記が省略されているといわれる例として、「土左‐承平五年一月七日」の「この歌ぬし『まだまからず』といひて立ちぬ」があるが、異説もある。
(4)意味の上では「べし」との類似性も持つが、「むず」は私的な判断に基づく主観的で情意的な表現に用いられる点で「べし」とは異なる。「むず」の終止形の用法では、単純終止は極めて少なく、連体終止法が多い点も特徴である。
(5)中世には「んず」とともに「うず」が用いられた。「ロドリゲス日本大文典」の方言について記述している箇所に「ヲワリからクヮントウにかけては Anzu(アンズ)又は enzu(エンズ)に終る書き言葉の未然形を、さかんに使ふ、例へば Aguenzu(アゲンズ)、Xenzu(センズ)、Quicanzu(キカンズ)、Mairanzu(マイランズ)、Narauanzu(ナラワンズ)、などは Agueôzu(アギョウズ)、Xôzu(ショウズ)、Quicôzu(キコウズ)、Mairǒzu(マイラウズ)、Narauǒzu(ナラワウズ)、の代りである」(土井忠生訳)とある。現代の方言形「あらあず」「あらす」「せす」などの「あず」「す」は「むず」の変化と考えられる。
(2)中古中期では、多く会話文に用いられている。「枕‐一九五」に「なに事を言ひても、そのことさせんとす、いはんとす、なにとせんとす、といふと文字を失ひて、ただ、言はむずる、里へ出でんずる、など言へば、やがていとわろし。まいて文に書いては言ふべきにもあらず」とある。
(3)「む」が撥音化して表記が省略されているといわれる例として、「土左‐承平五年一月七日」の「この歌ぬし『まだまからず』といひて立ちぬ」があるが、異説もある。
(4)意味の上では「べし」との類似性も持つが、「むず」は私的な判断に基づく主観的で情意的な表現に用いられる点で「べし」とは異なる。「むず」の終止形の用法では、単純終止は極めて少なく、連体終止法が多い点も特徴である。
(5)中世には「んず」とともに「うず」が用いられた。「ロドリゲス日本大文典」の方言について記述している箇所に「ヲワリからクヮントウにかけては Anzu(アンズ)又は enzu(エンズ)に終る書き言葉の未然形を、さかんに使ふ、例へば Aguenzu(アゲンズ)、Xenzu(センズ)、Quicanzu(キカンズ)、Mairanzu(マイランズ)、Narauanzu(ナラワンズ)、などは Agueôzu(アギョウズ)、Xôzu(ショウズ)、Quicôzu(キコウズ)、Mairǒzu(マイラウズ)、Narauǒzu(ナラワウズ)、の代りである」(土井忠生訳)とある。現代の方言形「あらあず」「あらす」「せす」などの「あず」「す」は「むず」の変化と考えられる。
むず
〘副〙
① 否定の表現を伴って、それを強調する語。全然。全く。まるで。
※滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)一〇「わしむず酔て、もうそべりたくなりました」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報