日本大百科全書(ニッポニカ) 「メレシコフスキー」の意味・わかりやすい解説
メレシコフスキー
めれしこふすきー
Дмитрий Сергеевич Мережковский/Dmitriy Sergeevich Merezhkovskiy
(1866―1941)
ロシアの詩人、作家、批評家。ロシア宮廷に仕える貴族の家に生まれる。ペテルブルグ大学卒業後、女流詩人ギッピウスと結婚し、ともに文学活動に入る。初め唯美主義的な詩を書いていたが、ドストエフスキー、ボードレール、ポーらの影響を受けて文学的転機を迎え、1892年、ロシア文学史上初めて「シンボル」なることばを意識的に用いた第二詩集『象徴(シンボルイ)』を出版。翌93年にはロシア・シンボリズムの宣言書(マニフエスト)と目される論文『現代ロシア文学の衰退の原因と新しい潮流について』で、70~80年代のナロードニキ的思想とそのリアリズム文学を否定し、「神秘的内容、シンボルおよび芸術的印象性の拡大」からなる新芸術を提唱、ロシア前期象徴派の指導者となった。その後「宗教・哲学会」を組織し、雑誌『新しい道(ノーブイ・プーチ)』(1903~04)を発行、その周りに象徴派グループを結集して、ゴーリキーを中心とするマルクス主義文学運動に挑戦する。その間、詩よりも散文に力を注ぎ、世界文学中の優れた作家についての評論『永遠の伴侶(はんりょ)』(1897)を上梓(じょうし)、さらに長大な歴史小説三部作『キリストと反キリスト』の第一部『神々の死――背教者ユリアヌス』(1896)、第二部『神々の復活――レオナルド・ダ・ビンチ』(1901)、第三部『反キリスト――ピョートルとアレクセイ』(1905)を完成して一時世界的名声を博した。この三部作の根底にあるのは、ヨーロッパ史のいずれの時代も、霊と肉、神と悪魔、キリスト教と異教との二元の対立葛藤(かっとう)の歴史であり、それはやがてきたるべき黙示録的世界において統一調和される、という独特な宗教的、哲学的思想である。彼はこれと同じ方法を批評にも適用する。すなわち、「肉の洞察者」トルストイは「肉の霊化」に努め、「霊の洞察者」ドストエフスキーは「霊の肉化」に努め、両者は究極的に合一さるべきものであると説いた『トルストイとドストエフスキー――その生活と創作』(1901~02)をはじめ、『ゴーゴリと悪魔』(1906)、『ロシア革命の予言者』(1906)などを書いて内外の反響をよび、ドストエフスキー、ゴーゴリ再評価のきっかけをつくった。そのほか戯曲『パーベル1世』(1908)、『皇子アレクセイ』(1920)も手がけ、マルクス主義批評家のルナチャルスキーからさえ評価されたが、1917年の社会主義革命を反キリストの下僕の支配する悪魔の王国とみなし、20年にギッピウス夫人とともにフランスへ亡命、死ぬまで反ソ活動を行った。亡命中も『ナポレオン』(1926)、『知られざるイエス』(1932)など数多くの作品を書いたが、いずれも冗長で生彩を欠く。
[箕浦達二]
『中山省三郎訳『永遠の伴侶 全二冊』、昇曙夢訳『トルストイとドストエーフスキイ――その生活と芸術 全二巻』(創元文庫)』▽『米川正夫訳『背教者ユリアヌス』『レオナルド・ダ・ヴィンチ』、米川哲夫訳『ピョートル大帝 全二巻』(1986~87・河出書房新社)』