日本大百科全書(ニッポニカ) 「もぐさ」の意味・わかりやすい解説
もぐさ
もぐさ / 艾
海岸、山地、高山に自生するキク科(APG分類:キク科)の多年草ヨモギの別名であり、これから得られる漢方薬「艾葉(がいよう)」の別名としても知られる。また、一般には灸(きゅう)術の施術の際に燃焼させる綿状の材料をさす。もぐさを用いる灸術は、古代中国において実用化したもので、数千年の歴史をもつといわれる。灸術において、もぐさが用いられてきた理由としては、(1)他の物質に比して燃焼温度が低い、(2)気体を含んで軽く、さまざまな大きさや形に簡単に変形できる、(3)持ち運びに便利、(4)中国および日本では広範囲に容易に入手できるなどがあげられる。
[井上雅文 2022年5月20日]
製法
ヨモギは高さ50~100センチメートルくらいに成長すると、全体にあった白色の毛は葉の下面だけになる。これらを採取し、陰干しにして乾燥させ、臼(うす)でよく搗(つ)くと、葉肉、葉脈は細粉となり、葉裏の長い丁字毛はもつれて綿状の塊となる。これを篩(ふるい)にかけて毛だけを分取したものが「さらしもぐさ」または「熟艾(じゅくがい)」とよばれ、灸術に使用される材料となる。
小倉百人一首の藤原実方(ふじわらのさねかた)の歌に「かくとだにえやはいぶきのさしも草 さしもしらじな燃ゆる思ひを」というのがあるが、この「さしも草」とは「もぐさ」のことである。また、この歌に詠まれた伊吹の里は下野(しもつけ)国の伊吹山の裾野(すその)(栃木市川原田(かわらだ)町)をさしている。やがて江戸時代以後になると滋賀県伊吹山麓(さんろく)の「切りもぐさ」が有名となった。現在の主産地は新潟県である。
[井上雅文 2022年5月20日]