改訂新版 世界大百科事典 「モンキアゲハ」の意味・わかりやすい解説
モンキアゲハ
Papilio helenus
鱗翅目アゲハチョウ科の昆虫。大型のチョウで開張11~12cm。房総半島産の夏型の雌にはときに巨大な個体が見られ,暖地産のミヤマカラスアゲハの夏型雌とともに日本最大のチョウとなる。翅は黒く,やや丸みを帯び,胴が短く脚が長い。翅の表面にはビロード状の光沢があり,後翅前方には大きい象牙色の紋があるのでこの名がついたが,新しい標本ではこの紋は黄色でなく,むしろ白い。
本種はインド北部から東南アジアを経て日本に達するが,熱帯地方では山地に限られる。北海道には産せず,本州の定住北限は新潟県と栃木県である。成虫は雌雄とも花に集まり,春はツツジ,サツキ,夏はハマユウ,クサギなどがとくに好まれる。夏型の雄はよく吸水をする。飛び方は雄大で翅の白紋が目だち,他種と紛れることがない。雄は特定のコース(蝶道)を巡回する習性の顕著なことで知られる。樹間や日陰を好んで通りぬけ,日中気温が高くなると活動は鈍くなり,木陰に静止するが,そのときは後翅の白紋がまったくおおい隠される。暖地の海岸に近い林に多く,分布はやや局地的であるが,これは食樹カラスノザンショウやハマセンダンの分布に制約されているからであろう。ミカン,ユズ,カラタチなどでも幼虫は正常に育つが,南方性の種のためか若葉の嗜好性が強く,固い葉は好まない。年2~3回の発生,さなぎで越冬する。幼虫,さなぎはクロアゲハやシロオビアゲハに類似し,この両種とは雑種ができる。
執筆者:高倉 忠博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報