アゲハチョウ(読み)あげはちょう(英語表記)swallow-tail

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アゲハチョウ」の意味・わかりやすい解説

アゲハチョウ
あげはちょう / 揚羽蝶
swallow-tail

昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科の総称、または同科に属するナミアゲハの別名。イギリスでswallow-tailといえばキアゲハをさす。ナミアゲハPapilio xuthusは、単にアゲハともよばれ、北海道から琉球(りゅうきゅう)列島(南西諸島)、および小笠原(おがさわら)諸島に分布する。日本産アゲハチョウ類中で、もっとも普通にみられる種であり、日本以外でも朝鮮半島、中国、台湾、グアム島などに広く分布する。

 アゲハチョウ科に属する種類は、大形から中形のチョウで、後ろばねに尾状突起をもつものが多い。前肢は退化せず、前肢の跗節(ふせつ)は明瞭(めいりょう)に5節が認められ、その先端につめを備える。前肢の脛節(けいせつ)下面に葉状片があり、これは近縁のシロチョウ科にはない特徴である。後ろばねの内縁は湾入し、雄では普通、表面にめくれ上がり、その中に特殊な鱗毛(りんもう)や毛を包むことが多い。後ろばねには亜前縁脈と基室がある。

 卵の形態には、ナミアゲハ属Papilio、タイマイ属GraphiumギフチョウLuehdorfiaのように、球形平滑で黄色ないし淡青白色のもの、ジャコウアゲハベニモンアゲハのように、擬宝珠(ぎぼし)状で表面に粒状の顆粒(かりゅう)があり、その色彩は橙(だいだい)色を呈するもの、ウスバアゲハParnassiusのように、まんじゅう形で表面に軽石状の彫刻があり、その色彩は灰白色を呈するものの三つの型がある。終齢幼虫の形態は、ナミアゲハ属やタイマイ属では、いわゆる柚子坊(ゆずぼう)形がもっとも普通である。そのほか、ジャコウアゲハ、ベニモンアゲハのように肉刺状突起をもつもの、ギフチョウ属のように長毛をもつもの、ウスバアゲハ属のようにヨトウムシヨトウガの幼虫)に似た形態のものがある。蛹(さなぎ)は帯蛹(たいよう)であるが、ウスバアゲハ属は例外で薄い繭(まゆ)をつくる。アゲハチョウ科は世界に約500種、日本には19種を産する。幼虫の食草はウマノスズクサ科、モクレン科、バンレイシ科、クス科、ミカン科、キク科、エンゴサク科、ベンケイソウ科などの植物である。

白水 隆]

分類

アゲハチョウ科は、成虫、幼虫、蛹などの形態から、次のように分類されている。

〔1〕メキシコアゲハ亜科Baroniinae メキシコに産する1属1種の特異なメキシコアゲハを含む。幼虫の食草はマメ科植物である。

〔2〕ウスバアゲハ亜科Parnassiinae 次の2族に分けられる。

(1)ウスバアゲハ族Parnassiiniは、日本産ではParnassius属の3種(ウスバアゲハ、キイロウスバアゲハ・別名ウスバキチョウ、ヒメウスバアゲハ)が、この族に入る。食草は、日本産のものはすべてエンゴサク科植物であるが、外国産のものでは、ベンケイソウ科植物を食べるものがある。

(2)ギフチョウ族Zerynthiiniは、日本産ではギフチョウ属の2種(ギフチョウ、ヒメギフチョウ)が、この族に入る。食草はウマノスズクサ科植物である。温帯から暖帯性のもので、熱帯から亜熱帯には分布しない。

〔3〕アゲハチョウ亜科Papilioninae 次の3族に分けられる。

(1)タイマイ族Graphininiは、日本産ではGraphium属の2種(アオスジアゲハ、ミカドアゲハ)が、この族に入る。熱帯から亜熱帯にかけて種類が多い。幼虫の食草は、バンレイシ科、モクレン科、クス科植物である。

(2)アゲハチョウ族Papilioniniは、日本産ではPapilio属の9種(ナミアゲハ、キアゲハ、クロアゲハなど)が、この族に入る。食草はミカン科植物がおもである。

(3)ジャコウアゲハ族Troidiniは、日本産ではジャコウアゲハ、ベニモンアゲハが、この族に入る。東洋の熱帯に産するトリバネアゲハ、キシタアゲハなどの大形種もこの仲間である。食草はウマノスズクサ科植物である。

[白水 隆]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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