精選版 日本国語大辞典 「熱帯魚」の意味・読み・例文・類語
ねったい‐ぎょ【熱帯魚】
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観賞用として飼育される熱帯・亜熱帯産の魚類をさし、広義には海産・淡水産の両方の魚種を含めるが、狭義には淡水産のもののみをさす。厳密な生物学的定義をもつ用語ではなく、狭義の場合でも一部の汽水(半海水)性魚類が含まれている。ここでは狭義の熱帯魚について解説する。
熱帯魚として古くから飼育されているものの多くは、形態、色彩、習性などの点で観賞価値が高く、飼育も容易な小形魚で、水槽内での繁殖を楽しむことのできる種類も少なくない。ところが、近年、飼育・輸送技術の進歩とともに、従来は水族館でしか飼育・展示されないような大形種や、系統上貴重な希種も趣味家によって飼われるようになってきている。貴重種のなかには、グリーンアロワナ(レッドアロワナ、アジアアロワナともいう)Asian bonytongue/Scleropages formosusや、ピラルクーpirarucu/Arapaima gigasのように、「絶滅のおそれのある野生動物の種の国際取引に関する条約」(通称ワシントン条約)によって輸出入が厳しく規制されている魚種があるので、購入・飼育には注意を要する。
[多紀保彦]
熱帯・亜熱帯産淡水魚のなかには、エジプトのティラピアやタイのベタ(トウギョ)のように、原産地では古くから飼育されていたものがある。飼育魚としての熱帯魚がヨーロッパやアメリカに初めて紹介されたのは、中国南部産のパラダイスフィッシュがパリにもたらされた1868年のことといわれている。その後、熱帯各地から観賞飼育用淡水魚が続々と導入され、ヨーロッパとアメリカでは1930年代までに熱帯魚飼育が趣味として定着した。
日本に初めて熱帯魚がもたらされたのは大正時代の中期で、ソードテール、グッピー、ゼブラダニオ、エンゼルフィッシュなど数十種が第二次世界大戦前の日本に紹介され、熱帯魚を販売する店舗や解説書も現れた。しかし、当時の熱帯魚は希少価値が魅力のペットであり、主として上流階級の間で愛玩(あいがん)されるにとどまっていた。第二次世界大戦による中断ののち、戦後まもなく熱帯魚の導入が再開された。そして1950年代後半(昭和30年代)になると、飼育器具の改良、ビニル袋の出現、航空輸送の発達などによって飼育や運搬・輸送が容易となり、海外からの新しい種類の導入が活発化するのと同時に、国内で繁殖が盛んに行われるようになって、1960年代の熱帯魚ブームをもたらした。しかし、1970年代に入ると趣味人口は下降線をたどり、繁殖業者も減少した。1980年代以降では飼育人口は安定化の傾向にあり、特定の魚種や珍魚・怪魚を収集するマニア的な趣味家が増加してきている。
台湾や東南アジア諸地域などでも近年の経済発展に伴って一般家庭への熱帯魚の浸透がみられ、また従来の地元産の野生魚の採集・輸出に加えて、外来・在来種の繁殖や新品種の作出を行う養殖家が増加している。
[多紀保彦]
これまでに日本に紹介された熱帯魚は500種以上に上る。その呼び名には学名、英名、和製英名、和名などが不統一に用いられ、名称の混乱が著しい。世界の淡水魚の種分化や分布の中心は南アメリカ、アフリカ、アジアの熱帯部である。これらの地域では、カラシン類、コイ類、ナマズ類、シクリッド類が卓越しており、熱帯魚の原産地と種類もこれを反映している。熱帯魚の主要分類群は次のとおりである。
(1)カラシン類(コイ目カラシン亜目) 中・南アメリカとアフリカに分布する十数科からなる。カラシン科Characidaeは、このうちもっとも一般的で、レモンテトラlemon tetraのようなヒフェソブリコン属Hyphessobrycon、グローライトテトラglowlight tetraなどのヘミグラムス属Hemigrammus、カージナルテトラcardinal tetraその他のケイロドン属Cheirodon、ネオンテトラneon tetraなどのパラケイロドン属Paracheirodon、そのほかモンクハウシアMoenkhausia、プリステラPristellaなど、テトラ類と総称されて古くから親しまれてきた多数の南アメリカ産の小形の美麗種を含んでいる。目が退化したメキシコ産のブラインドケーブカラシンblind cave characinもこの科の魚である。そのほかの南アメリカ産カラシン類としては、ペンシルフィッシュpencilfishのカラシディウム科Characidiidae、薄い斧(おの)形の特異な体形で知られるハチェットフィッシュ類hatchetfishのガステロペレクス科Gasteropelecidae、獰猛(どうもう)な肉食魚として有名なピラニア類piranhaやメティニス類Methynisなどを含むセラサルムス科Serrasalmidaeがある。アフリカ産カラシンとしては、コンゴテトラCongo tetra(キタリヌス科Citharinidae)やクラウンテトラclown tetra(ディスコドゥス科Discodontidae)が人気を集めている。
(2)コイ類(コイ目コイ亜目) この類の大部分を占めるコイ科Cyprinidaeは、ユーラシアやアフリカに分布しているが、主産地は南・東南アジアである。熱帯魚として一般的な種類は、スマトラSumatra barb、チェリーバーブcherry barbなどバーブと通称されているプンティウス属Puntius魚類をはじめとし、ゼブラダニオzebra danioなどのダニオ類(ブラキダニオ属Brachydanioとダニオ属Danio)、ラスボラ・ヘテロモルファharlequin rasboraのようなラスボラ属Rasbora魚類、レッドテールブラックシャークred-tailed black sharkで代表されるラベオ属Labeo、熱帯魚には珍しい中国南部産のアカヒレwhite cloud mountain fishなどがある。ドジョウ科Cobitididaeはコイ科と近縁の科で、クラウンローチclown loachその他のボティア属Botiaや、クーリーローチcoolie loachなどのアカントフタルムス属Acanthophthalmusのような東南アジア産の種類がよく飼われている。
(3)ナマズ類(ナマズ目) オーストラリア区を除く世界の淡水に分布するナマズ目魚類には十数科があり、南アメリカ産のロリカリア属Loricariaやプレコストムス属Plecostomus(ロリカリア科Loricariidae)のような珍奇な形態をした魚や、腹を上にして泳ぐアフリカ産のサカサナマズ類upside-down catfish(モコクス科Mochokidae)など、特異な魚種が数多く含まれている。南アメリカ産のカリクティス科Callichthyidaeに属するコリドラス属Corydoras魚類は、古くから飼育されている小形魚である。アジア産のナマズ目としては、体が透明なグラスキャットフィッシュ類glass catfish(ナマズ科Siluridae)や、クララ類Clarias(ヒレナマズ科Clariidae)などが一般的である。
(4)メダカ類(トウゴロウイワシ目メダカ亜目あるいはメダカ目) 世界の温・熱帯に広く分布しているが、目や科の分類には諸説があり、また多数の亜種や地方品種に分化した種が少なくない。ライアーテールlyretailが代表的なアフィオセミオン属Aphiosemionや、ノトブランキウス属Nothobranchius、アプロケイルス属Aplocheilusなどの卵生種(キプリノドン科Cyprinodontidae)には美麗なものが多く、なかには受精卵が泥中で越乾して雨期の到来とともに孵化(ふか)するものがある。卵が雌の胎内で発生して仔魚(しぎょ)として産まれる卵胎生種には、グッピーguppy、ソードテール類swordtail、プラティー類platy、モーリー類mollyなどの一般種(ポエキリア科Poechiliidae)があり、各種の交配・改良種が作出されている。ヨツメウオfour-eyed fish(ヨツメウオ科Anablepidae)もメダカ類である。
(5)シクリッド類(スズキ目カワスズメ科Cichlidae) アフリカと中・南アメリカに分布する。雌雄でつがいをつくり、卵を見張ったり口中で孵化させたりする習性で知られている。中・南アメリカ産シクリッドには、熱帯魚の代表種エンゼルフィッシュangelfishやディスカスdiscus、アピストグラマ属Apistogramma、キクラソーマ属Cichlasoma、アストロノータス属Astronotusなどがある。アフリカ大陸ではマラウイ湖、タンガニーカ湖、ビクトリア湖などで多彩な種分化がみられ、ハプロクロミス属Haplochromis、ランプロログス属Lamprologus、プセウドトロペウス属Pseudotropheusなど海産魚を思わせる色彩をした種類が人気を集めている。
(6)グーラミー類(スズキ目キノボリウオ亜目) この仲間はえらの上部に上鰓(じょうさい)器官という補助呼吸器官をもち、空気呼吸をすることができる。キノボリウオ科Anabantidaeには、アジア産のキノボリウオ(アナバス)climbing perchのほかにアフリカ産の各種がある。その他の科はすべて熱帯アジア産で、キッシンググーラミーkissing gouramyのヘロストーマ科Helostomidae、ベタbetta, fighting fish、パールグーラミーpearl gouramyなどを含むベロンティア科Belontiidaeなどがある。
以上が熱帯魚の主要群であるが、このほかにかなり一般的に飼育されているものに次のような種類がある。アロワナ類arowana、ナギナタナマズ類(ナイフフィッシュ)feather back、エレファントノーズ類elephant-nose、グラスフィッシュglassfish、スパイニーイール(トゲウナギ)spiny eel、ナンダス属Nandus、バディス属Badis、ダトニオイデス属Datnioides、テッポウウオ類(アーチャーフィッシュ)archerfish、スキャット属Scatophagus、モノダクティルス属Monodactylus、バンブルビーbamble-bee fish、淡水フグ類。
[多紀保彦]
魚は呼吸をして水中の酸素を取り入れ二酸化炭素を放出し、摂餌(せつじ)をして排出物を水中に出す。酸素の不足は致命的であり、水中の過剰な二酸化炭素や排出物とくにアンモニアは魚に対し毒性的な働きをするので、水槽という狭い閉鎖水系で魚を飼育するには、これらの条件の人為的調節すなわち水質管理が必要となる。次に一般的な飼育と管理について記述する。
〔1〕水 熱帯魚槽の水質要因には硬度、水素イオン濃度(pH)、溶存酸素と二酸化炭素量、窒素とくにアンモニア態窒素量などがあるが、日本の水道水では硬度とpHには普通問題はなく、酸素量の維持と排出物や残餌による汚染の防止が重要となる。水温も重要な条件であるが、保温器の使用により問題なく解決できる。良好な水質を保つためには、(1)水量に比し魚の量を少なくする、(2)水草を繁茂させ魚の呼吸と植物の同化作用とを調和させる、(3)エアポンプで空気を補給したりフィルターで水を濾過(ろか)して濾砂中のバクテリアによってアンモニアを無害な硝酸塩に変える、(4)水換えを行う、などの手段があり、これを適宜に組み合わせることによって、魚を状態よく飼育することができる。水道水を使う場合には、消毒の塩素を除去するために一昼夜以上フィルターかエアポンプで通気をする。急ぐ場合はチオ硫酸ソーダ(ハイポ)を、水10リットル当り米粒大のもの1粒くらいの割合で入れると中和できる。
〔2〕水槽 熱帯魚用の水槽には、板ガラスをシリコン樹脂で接着しプラスチックの上部枠と底板で補強した総ガラス製水槽、ステンレス枠にガラスを張ったステンレス枠水槽、枠のないプラスチック水槽がある。水は意外に重いので、水槽はじょうぶで平らな台の上に置く。発泡スチロール板を水槽の底に敷いたり側面に張ったりすると大きな保温効果がある。水槽の底(底面式フィルターを使う場合はその上)には、砂か目の細かい砂利を敷く。
〔3〕水温調節 熱帯魚の適水温は一般に25~28℃で、水温の調節・維持にはバイメタル式のサーモスタットと水中ヒーターを用いる。空気補給には、ゴム製のダイアフラムを振動させて空気を送るバイブレーター式エアポンプが一般に用いられている。
〔4〕濾過装置 水の濾過器には、エアポンプからの空気で底部の砂を通して水を循環・濾過させる底面式フィルター、濾過材を詰めた小型容器を水槽内に置く投げ込み式、水槽の外(上部か側面)に濾過槽を置き、小型揚水ポンプで水を循環させる外部式がある。
〔5〕水草・照明 水草は美観のためだけではなく、水質のバランスを保つのに有効であると同時に、魚の隠れ場所ともなる。適度な明るさは水草のためにも必要で、各種の蛍光灯を使った照明器具が使われている。
〔6〕餌(えさ) 熱帯魚に使われている生物餌料(生き餌)には、成魚用としてはアカボウフラ(アカムシ、ユスリカの幼虫)、イトミミズなど、稚魚用にはブラインシュリンプ(アルテミアの乾燥卵を孵化させたノープリウス)などがある。最近の人工餌料の発達は目覚ましく、魚の食性や大きさに応じた各種の餌が開発されており、人工餌料のみでの飼育も可能である。
〔7〕病気 熱帯魚にもっとも多い病気は白点病である。原生動物イクティオフティリウスの寄生によるもので、体表が白点に覆われる。えら腐れ、ひれ腐れなど細菌性疾病も多く、損傷部には水生菌がつきやすい。治療法には、薬品を飼育水に入れる方法と薬浴法とがあるが、平素の観察により病気を早期に発見し、治療法の正確な知識を得て早期に処置することが肝要である。
〔8〕繁殖 熱帯魚飼育の楽しみの一つは繁殖である。卵胎生の魚の多くは飼育槽中で仔魚を産出するが、親を含めてより大形の魚に捕食されるので、仔魚を別の水槽に分けたほうがよい。卵生魚は親魚を別の産卵槽に入れて産卵させる。シクリッドは産卵床に産み付けた卵や仔魚を哺育(ほいく)し、グーラミーの多くは水面に泡巣をつくって卵を産み付け、普通、雄が巣を守る。ほかの卵生種では、多くの場合、産卵巣とするために清潔な水草やほぐしたシュロ皮などを入れた水槽で産卵させる。卵を食べるものが多いので、産卵後はただちに親を別の水槽に移す。仔魚は卵黄を吸収してしまうと摂餌を始めるので、口の大きさに応じてゆでた鶏卵の黄身、ブラインシュリンプ、微粒人工餌料などを与える。
[多紀保彦]
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