改訂新版 世界大百科事典 「ヨーロッパ特許」の意味・わかりやすい解説
ヨーロッパ特許 (ヨーロッパとっきょ)
〈ヨーロッパにおける統一的特許付与手続と特許能力に関する条約〉(ヨーロッパ特許条約と略称される)により付与された特許。同条約は1973年にミュンヘンで調印され,77年に発効したが,ミュンヘン条約,第一条約とも呼ばれる。調印国はヨーロッパ共同体の構成国のほか,オーストリア,ノルウェー,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,トルコ,モナコ,ユーゴスラビア,リヒテンシュタイン,フィンランド等である。
この条約により,ミュンヘンにヨーロッパ特許庁European Patent Office(EPO)が開設され,ここでヨーロッパ特許が付与される。ヨーロッパ特許の付与を欲する者は,この条約の手続に従って,特許の付与を希望する一つ以上の国を指定して出願する。ヨーロッパ特許庁では特許能力等について審査し,拒絶理由が見つからない場合には,出願者の指定した国において,その国内法における特許と同等のヨーロッパ特許を付与する。出願人は,みずから指定した国の数だけのヨーロッパ特許の束を取得することになる。
この制度はきわめて複雑であり,各国別の特許制度からヨーロッパ全域にわたる統一特許制度への過渡的なもので,各国の特許制度を温存したまま,ヨーロッパ特許制度という新しい網をかぶせたものである。出願人は,従来のように各国ごとに特許出願をすることもできるし,また自分の希望する国を指定してヨーロッパ特許庁へ出願することもできる。出願人は手続に要する手間や費用,あるいはヨーロッパ特許と国内特許の要件や効果の差異を考慮に入れて,どちらか一方を選択することができる。このヨーロッパ特許条約により,各国特許庁の重複審査の回避をすることができるし,また審査機関をもたないフランス等にとっては審査システムを導入することができ,出願人にとっても多数国へ出願する場合の労力や費用が節約できる,という利点がある。また,このような条約の成立により,加盟各国の国内特許法も条約に近い形に改正され,特許制度の統一化に一歩近づくことができる。このヨーロッパ特許条約は,特許付与という主権の一部を国際機関に委譲したものであり,その意味において国際条約としても異例のものであろう。
なお,この条約はヨーロッパに限定されたものであるが,日本など非加盟国の国民はこの制度を利用してヨーロッパに出願することができる。とくに,特許協力条約(PCT)を経由すれば,特許庁(日本の場合)へ国際出願することによってヨーロッパ特許制度を利用することもできるので,非常に便利な制度である。
→特許 →ヨーロッパ共同体特許
執筆者:中山 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報