リカレント教育(読み)りかれんときょういく(英語表記)recurrent education

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リカレント教育」の意味・わかりやすい解説

リカレント教育
りかれんときょういく
recurrent education

広義には社会人が人生の途上でさまざまな形で学ぶことを意味するが、狭義には高等教育機関など整った教育機関で教育を受けることを意味する。「回帰教育」とか「還流教育」と訳されることもある。リカレント教育の考えは、スウェーデンで1968年に高等教育制度審議のために設置された教育審議会(U68と略称)の第二次報告「高等教育―機能と構造」で示された。翌年の第6回ヨーロッパ文相会議で、スウェーデンの文相からこれについての報告があり、その後OECD(経済協力開発機構)がこの理念に基づく教育のあり方について提唱することになった。職業―教育―職業といったサイクルを確立することは、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の提唱した生涯教育を具体化するものとしてとらえられる。

 スウェーデンでは、1977年の高等教育改革で、25歳以上で、4年以上の職業経験(育児を含む)をもつ者を高等教育機関に受け入れる特別な選抜方法を採用し、一時は大学生半数成人学生であった。そこには、教育機会の均等化とともに、産業構造の変化・技術革新への対応ということがあった。しかしこの制度は、若者の高等教育への受入れ枠を狭めるとする批判もあって、成人入学枠を縮小することも行われた。多くの国でパートタイムの学生を増やしたり、単位累積を認めて職場と学校を行き来できる仕組みを整えたりしている。イギリスでも、1971年に、資格を問うことなく成人を入学させ、放送などを通じて教育を行う公開大学Open Universityが発足し、アメリカでは、コミュニティ・カレッジが、開かれた教育機関として希望者に多様な種類の教育を提供している。

 日本でも、第二次世界大戦後、大学や高等学校通信教育が行われてきたが、新たに放送大学が設置されて、1985年(昭和60)以来、成人学生を受け入れるほか、多くの大学が社会人入学の制度をとるようになっている。単位の累積による学位取得も可能な科目等履修生の制度の採用も広がっている。自治体、高等教育機関、企業等でリカレント教育協議会を構成し、リカレント教育講座の充実に努めるところも増えている。職業技術教育を中心とした専修学校も、リカレント教育の機能を果たしている。

 多くの国では、いわゆる終身雇用制でないため、教育機関での職業技術についてのリカレント教育が必要とされる度合いが高い。その点、日本では職業技術は企業内教育によるところが大きかったが、派遣社員の増加にみられるように、従来の雇用形態が揺らぎ始めており、リカレント教育機関の整備の必要性が増しつつある。

[上杉孝實]

『佐々木正治・諸岡和房編『世界の生涯教育』(1991・亜紀書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リカレント教育」の意味・わかりやすい解説

リカレント教育
リカレントきょういく
recurrent education

義務教育または基礎教育の修了後,生涯にわたって教育と他の諸活動(労働,余暇など)を交互に行なう教育システム。スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンの提唱した概念で,1970年経済協力開発機構 OECDの教育政策会議で取り上げられ,研究が進められている。スウェーデンやフランスの有給教育制度,アメリカ合衆国のコミュニティ・スクール,日本の夜間制社会人大学院,放送大学などがその例である。青少年の社会参加を早め,過重な教育負担や教育内容の世代間較差を解消するなどの効果が期待される。しかし,生涯のどの段階にどのような教育を配置するか,労働などを中断して教育に参加する条件をどう確保するか,教育経費の増大にどう対応するかなど,具体化への課題は多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

お手玉

世界各地で古くから行われている遊戯の一つ。日本では,小豆,米,じゅず玉などを小袋に詰め,5~7個の袋を組として,これらを連続して空中に投げ上げ,落さないように両手または片手で取りさばき,投げ玉の数や継...

お手玉の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android