労働政策(読み)ろうどうせいさく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「労働政策」の意味・わかりやすい解説

労働政策
ろうどうせいさく

賃金や労働条件をはじめとした、雇用、労働全般に関する基本的な諸問題を解決するために、国家などが実施する政策

 18世紀末から開始された産業革命を経て資本主義社会が生成してくると、一方に資本、他方に賃金労働という関係が形成される。それまでの家族や地域を中心とした共同体的な生活が次第に解体され、資本家と雇用契約を結び、労働力を商品として売るしか生活を維持していく方法がない、労働者階級が誕生した。世界史的にみてもっとも早く資本主義を確立したのはイギリスであり、したがって労働問題に対する労働政策も同国で先行した。労働時間を規制した1833年の工場法は、労働者を保護する立法の代表的なものである。

 その後労働政策の領域は、賃金・労働条件から次第に労働組合労使関係、労働市場等の分野へと広がりをみせ、欧米を中心として資本主義化した国々は国内の労働政策を推進した。20世紀に入ると、1919年にILO(国際労働機関)が設立され、国際的な労働基準を普及、啓蒙(けいもう)する活動が開始された。1928年には最低賃金決定制度の創設に関する条約(第26号)が採択されている。日本で工場法が制定されたのは1911年(明治44)のことで、1947年(昭和22)の労働基準法へと受け継がれた。また1949年には改正労働組合法が制定されている。

 労働政策は労働者の働く権利を守るものであるため、政策推進主体は政府になることが一般的であり、全国的に統一した基準、規制を設けて最低限のルールを確立する。しかし、1990年代以降加速するグローバル化の進展は、企業の海外進出、労働力の国際移動を促したため、国際的な枠組みが必要となった。EU(ヨーロッパ連合)をはじめとして地域レベルでの労働基準づくりが進むのも、労働力の国際流動化という事情が反映している。

 労働政策の中身は、それぞれの国や地域の労使関係の実情に大きくかかわる。労働組合が産業別に編成されているヨーロッパの一部の国々と、企業別に組織されている日本を比較すると、前者では中央レベルで労使交渉が成立するために、産業別の労働規制が広範囲に及ぶことがある。経済発展のための重要な礎石が健全な労使関係の確立にあるとすれば、労働政策のもつ意味は大きい。

 国際的にみて、とりわけアジアは経済発展とともに労働問題が顕在化してきている地域であり、中国はその代表例であろう。中国は2008年に労働契約法を制定したが、十分な労働政策を確立しているとはいえない。日本では1999年(平成11)に労働者派遣法が改正され、派遣対象職種が拡大されたが、派遣労働者雇用需要は景気に左右されやすく整理解雇につながりやすい、という大きな問題が生起した。日本は今後社会の成熟化が進むといわれ、若年層、女性、高齢者の雇用促進をはじめとして柔軟な労働政策を打ち立てていく必要がある。

[玉井金五]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「労働政策」の意味・わかりやすい解説

労働政策
ろうどうせいさく
labor policy

勤労者の生活と雇用の安定,福祉向上の実現を図る政策をいう。具体的には,賃金・労働時間の法定労働基準や,安全衛生基準の維持向上,労使関係の安定,雇用・失業対策,職業紹介機能の整備,職業能力開発対策,労働者福祉対策 (福利厚生,社会保障,財産形成など) を指す。戦後の政府の努力や経済発展もあり,こうした労働政策は現在,一定の水準に達している。しかし勤労者意識の変化や情報化,グローバル化,高齢化など労働力需給の構造変化が生じている一方で,長い労働時間により勤労者生活の豊かさが実感できない,資産格差の拡大や不平等感の高まりといった問題も指摘されており,労働政策に対する課題は多いといえる。

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