教師になるための準備教育を「教員養成」pre-service education of teachersとよぶのに対して、教師として就職した後の研究・訓練を「現職教育」in-service education of teachersという。法的には「研修」という用語が使われることが多い。いかなる職業においても不断の研究・訓練は必要であるが、学校教育の成果は教師の裁量と力量に負うところが大きいため、教師には現職教育・研修がとくに必要とされる。とりわけ1966年に出されたILO(国際労働機関)・ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「教員の地位に関する勧告」を契機に、教職は専門職とみなされるべきであるとの認識が広まり、これに伴って、教師の現職教育・研修がいっそう重視されるようになった。
[牛渡 淳 2022年1月21日]
日本の現職教育・研修の法的根拠は、教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)に求められる。まず、その第21条1項では「教育公務員は、その職責を遂行するために、絶えず研究と修養に努めなければならない」と、教師に対して研修への積極的な態度を要求している。これは、一般公務員の研修が「勤務能率の発揮及び増進のために」(地方公務員法39条)必要であると規定されているのとは異なり、教師にとって、研修が職務の遂行に必要不可欠のものと考えられていることを示すものである。したがって、教育公務員特例法第21条2項では、任命権者に対して、教師に研修の機会を提供するための積極的な姿勢を求め、「教育公務員の研修について、それに要する施設、研修を奨励するための方途その他研修に関する計画を樹立し、その実施に努めなければならない」と定めている。さらに、同法第22条では「教育公務員には、研修を受ける機会が与えられなければならない」として、教師が勤務場所を離れて研修できること、および長期研修に参加できることを明記し、研修が教師の主体的態度によって行われることを期待している。
[牛渡 淳 2022年1月21日]
現職教育・研修の種類としては、まず、勤務の取扱いの観点からみると、勤務時間を利用すべき研修、職務命令による研修、職務専念義務の免除による研修、の3種類に大別される。また、形態別では、自己研修、校内研修、教育委員会や教育(研修)センター主催の研修、民間教育研究団体主催の研修、大学や教育(研修)センターへの長期派遣など多様な種類がある。さらに、内容別では、初任者研修、教職経験者研修、職能別研修、課題別研修などがある。1978年(昭和53)、中央教育審議会答申「教員の資質能力の向上について」は、研修の体系的整備が必要であると指摘した。それを契機に、各都道府県教育委員会は、教師が年齢や経験に応じて、適時、適切な内容・方法で研修が受けられるよう、それぞれ独自の「教員研修体系」を策定している。
[牛渡 淳 2022年1月21日]
第一に、大学院での現職教育の機会が拡大していることである。たとえば、2000年(平成12)、教育公務員特例法の一部改正によって「大学院修学休業」制度が成立した。これは、専修免許状の取得を目的として、任命権者の許可を得て、3年を超えない範囲で大学院に在学して、その課程を履修するために休業ができる制度である。これによって、多くの教師が、職を失わずに、もう一度大学院レベルで教育について学び直し、さらにワンランク上の免許状を取得することが可能となった。
さらに、2003年に新しく専門職大学院制度が発足し、会計、公共政策、法曹等の分野で専門職大学院が成立したが、2008年には、教職の分野でも、この制度を活用した教職大学院が成立した。これは、「実践的指導力・展開力を有する新人教員の育成」とともに、「指導理論、実践力・応用力を備えたスクールリーダーの育成」という中堅教員の現職教育を行う、二つの異なる目的をもった新しいタイプの大学院であり、全国の教育系国立大学を中心にその数を増やしている。
第二に、教員免許更新制の発足と廃止である。教員免許更新制導入の発端は、教育改革国民会議で、指導力が不足している教員が存在することが問題とされ、その必要性が指摘されたことに始まる。しかし、2002年2月の中央教育審議会答申は、最終的に免許更新制の導入は困難であるとして断念し、それにかわる「10年経験者研修」を提唱した。その結果、この新しい研修制度が、2002年の教育公務員特例法の一部改正によって実現することになった。しかし、その後、これとは別に2007年に教育職員免許法が改正され、新たに教員免許更新制が成立した。その結果、10年目の教員が免許更新講習を受けることも要求されるようになったため、10年経験者研修と免許更新講習との統合・整理が求められてきた。その結果、2016年、「10年経験者研修」は廃止され、新たに「中堅教諭等資質向上研修」が誕生した。他方、教員免許更新制についても、教員の時間的・経済的負担が大きく、教員不足に拍車をかけていること等批判が多く、2023年に廃止されることになり、それにかわる新たな研修制度が検討されている。
第三に、2016年の教育公務員特例法改正により、教員育成協議会の設置と教員育成指標の作成が全国の都道府県・政令市に求められたことである。これによって、教員の資質向上に関する指標が全国的に整備され、さらに、この指標を基にした研修計画が都道府県・政令市の教育委員会によって作成された。こうした研修計画が、教員の生涯にわたる職能成長を真に保証することができるかどうか、その成果が問われている。
第四に、近年、学力低下が問題視されるなか、従来から校内研修として行われていた教師による「授業研究」の重要性が改めて注目され、再評価されていることである。これは、質の高い授業を行うために教師たちによって行われる共同的かつ自発的な授業実践力向上への取り組みである。これは「レッスン・スタディ」として国際的にも高く評価され、諸外国でも取り入れられている。
[牛渡 淳 2022年1月21日]
『牧昌見編著『教員研修の総合的研究』(1982・ぎょうせい)』▽『佐藤幹男著『近代日本教員現職研修史研究』(1999・風間書房)』▽『牛渡淳著『現代米国教員研修改革の研究』(2002・風間書房)』▽『佐藤学他編『学びの専門家としての教師』(2016・岩波書店)』▽『日本教師教育学会編『教師教育研究ハンドブック』(2017・学文社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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