日本大百科全書(ニッポニカ) 「リヒテル」の意味・わかりやすい解説
リヒテル
りひてる
Святослав Рихтер/Sviatoslav Richter
(1915―1997)
ウクライナのピアノ奏者。ジトーミル生まれ。20世紀後半を代表する大家の一人だが、ほとんど独学でピアノ奏法を身につけた。1937年モスクワ音楽院に入学、名教師ゲンリヒ・ネイガウスに師事。在学中の40年モスクワでデビューし、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番を初演。45年全ソ音楽コンクールで第1位となり名をあげた。50年から東欧諸国に楽旅、60年初めて西側に出てアメリカ・デビュー。これが決定的な成功を収めてリヒテルの存在は一躍世界中に知れ渡った。70年(昭和45)初来日。卓越した技巧を有したリヒテルの表現力は非常に幅が広く、迫力満点の激しい緊張を生み出す一方、柔和で叙情的な楽趣の表出にも長(た)けていた。レパートリーは広く、とくにバッハ、ベートーベン、シューベルト、シューマン、ラフマニノフ、スクリヤービン、プロコフィエフを得意とした。
[岩井宏之]
『昆田亨写真『巨匠リヒテルの世界』(1987・東京新聞出版局)』