フランスの社会心理学者。群集心理学を論じて,現代における社会心理学の源流の一つを担っている。もともと医者として出発したのであるが,その広範な関心に導かれて考古学や人類学を遍歴し,しだいに社会心理学へとかたむいていった。彼の名を不朽ならしめたのは,なんといっても1895年の《群集心理La psychologie des foules》である。群集とは,そのなかですべての個人が意識的な人格を完全に喪失し,操縦者の暗示のままに行動するような人間集合体である。しかるに,産業革命以後のいちじるしい社会現象の特徴は,人々をますますこのような群集状況下に追いやっていることである。〈いまわれわれが歩み入ろうとしている時代は,群集の時代である〉。このような認識は,19世紀末から20世紀初めにかけてあらわれた多くの社会学的・社会心理学的思想家のそれと共通するものをもっている。ル・ボンが注目されたのはこのゆえである。ただ,今日の群集心理論は,〈大衆行動〉〈大衆運動〉をテーマとして,群集の非合理性を組織化へ向けるような過程を問題にしており,ル・ボンにみられる群集心理のマイナス面のみの評価からはぬけだしていることに注意すべきである。著作としてはこのほかに,《民族進化の心理法則》(1894),《フランス革命と革命の心理》(1912),《現代の箴言》(1913)などがある。
執筆者:富永 健一
フランスの化学技術者,ガス照明の先駆者。1797年木材の乾留から可燃性ガス(木ガス)の製造を試み,99年に照明用〈熱ランプ〉の特許をとった。1801年パリのオテル・セーヌリーでガス照明の公開実験をおこない,その実用価値を世に示した。シャンゼリゼで強盗に刺され不慮の死をとげた。
執筆者:古川 安
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フランスの社会心理学者。医学博士。博識多才で、広範な学問分野で活躍したが、『民族進化の心理法則』(1894)、『群集心理』(1895)、『フランス革命と革命の心理』(1912)などの社会心理学上の業績が彼の名を不朽ならしめた。彼は、ヨーロッパにおける産業革命以後の急激な社会変動の局面を「群集の時代」の到来として特徴づけ、群集が、「少数の知的貴族」によって創造され担われてきた文明を破壊するのではないかとの危機感を強烈に抱いた。したがって、彼の群集とは基本的に、道徳的にも知的にも感情的にも低劣な人々の集合体であったといってよい。もっとも、「道徳的群集」の存在をも認め、群集をかならずしも全面的に蔑視(べっし)していたわけではなかったが、彼の群集観の根底に、貴族主義的批判が厳然と横たわっていたことは否定できない。群集概念の不当な拡大や群集心理の実体化など、批判すべき点が今日少なくないとしても、群集心理の現象を社会心理学の研究分野として確立し、社会心理学の有力な源流たらしめたことは、彼の大きな功績である。
[岡田直之]
『桜井成夫訳『群衆心理』(角川文庫)』
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…しかし群集のもつ政治的・社会的な力が注目され,群集そのものが注目されたのは,フランス大革命その他の近代市民革命以後である。ただし,群集についての理論を最初に展開したとされる19世紀フランスの心理学者ル・ボンGustave Le Bonは,しばしば指摘されるように貴族主義の立場から群集,とりわけ革命群集を断罪した。ル・ボンに異を唱えた同時代のフランスの社会心理学者タルドGabriel Tardeの群集観も,この点では同じで,情緒的,非合理的,残虐,付和雷同的など,群集の劣性を両者とも強調している。…
…しかし群集のもつ政治的・社会的な力が注目され,群集そのものが注目されたのは,フランス大革命その他の近代市民革命以後である。ただし,群集についての理論を最初に展開したとされる19世紀フランスの心理学者ル・ボンGustave Le Bonは,しばしば指摘されるように貴族主義の立場から群集,とりわけ革命群集を断罪した。ル・ボンに異を唱えた同時代のフランスの社会心理学者タルドGabriel Tardeの群集観も,この点では同じで,情緒的,非合理的,残虐,付和雷同的など,群集の劣性を両者とも強調している。…
…メディアを用いたコミュニケーションで結ばれている人間集団。ル・ボンが〈現代は群集の時代だ〉と否定的に規定したのに対し,タルドが〈現代は公衆の時代だ〉と反論し,公衆を社会学,社会心理学の用語にした。タルドにおける公衆のイメージは〈拡散した群集〉であり,したがってタルドは公衆にも,群集についてと同様,情緒的・非合理的・付和雷同的などのレッテルをはっている。…
※「ルボン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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