精選版 日本国語大辞典 「群集」の意味・読み・例文・類語
ぐん‐しゅう ‥シフ【群集・群衆シュウ・群聚シュウ】
むれ‐つど・う ‥つどふ【群集】
むれ‐あつま・る【群集】
むらがり‐あつま・る【群集】
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非日常的な状況のもと,多少とも共通の関心,志向,目標を抱いて集まっている人間集合。すなわち群集は,非日常性と志向の共通性を特徴とする。たとえば,あるデパートにある時刻に何百人,何千人の客がいても,それは群集ではない(サルトルは《弁証法的理性批判》の中で,集合態または集列体と呼んでいる)。ところが,ある売場でのバーゲン・セールが多くの客のお目当てになると,彼らは群集に近づく。混雑がひどくなり,熱気が増し,店員の整理や制止が利かなくなり,購買行動の場としての日常性が破れると,そのとき群集が出現する。店内で火事が発生し,すべての客が出入口に殺到すると,彼らはまぎれもなく群集である。劇場やイベントの観客,音楽会の聴衆などは,その鑑賞行動それ自体が非日常的だし,鑑賞対象にみんなの関心が集中してもいるから,だれかがつまずいたり,前に出ようとして押合いが起こるなど,些細なトラブルがきっかけで群集になりやすい(見物群集)。
古代にも,祭礼や災害,戦争などをきっかけに,さまざまな形態の群集が発生していた。しかし群集のもつ政治的・社会的な力が注目され,群集そのものが注目されたのは,フランス大革命その他の近代市民革命以後である。ただし,群集についての理論を最初に展開したとされる19世紀フランスの心理学者ル・ボンGustave Le Bonは,しばしば指摘されるように貴族主義の立場から群集,とりわけ革命群集を断罪した。ル・ボンに異を唱えた同時代のフランスの社会心理学者タルドGabriel Tardeの群集観も,この点では同じで,情緒的,非合理的,残虐,付和雷同的など,群集の劣性を両者とも強調している。たしかに群集は非日常状況のもとにいるから,日常の規範,行動パターンから逸脱しやすい。役割分担やコミュニケーション・ネットワークなどの組織性も欠けている。しかも志向性は共通だから,同調行動にはしりやすい。そのとき目標やチャンスが希少だ(と認識される)と,早い者勝ちの競争が激化する。いわゆる群集の劣性は,こういう要因の組合せから発現する。ただし群集のアノミー(規範喪失,無秩序)といっても,既存の秩序の側の一方的な裁断かもしれないし,非日常状況(ハレの日)のもとで日常(ケの日)のとは違う別種の規範が働いているかもしれない。リュデGeorge Rudéが《フランス革命と群集》(1951)で明らかにしたように,きわめて戦闘的な革命群集が思慮と規律をもち,組織化していく例もみられる。
なお群集の類語に,乱衆mob,公衆public,大衆massなどがあり,それぞれの区別はあいまいである。ただコミュニケーションのメディアを規準にするなら,群集は声や身ぶりで情報を交換・伝達し,メディアを必要としない(ときには旗や楽器,携帯マイクの類を用いるが)。公衆は小規模のメディアで結ばれ,空間的に〈散らばった群集〉(タルド)と考えられる。大衆はマス・メディアの末端にいる。乱衆は,規範から逸脱し,暴力化した群集である。
執筆者:稲葉 三千男
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…なおフランス語の日常の用例では,publicは演劇,音楽,演説などのauditoire(聴衆)と同義のことが多い。publicをfoule(群集)と同義に用いた例も少なくない。群集【稲葉 三千男】。…
…仏教用語では,多数の僧侶,多数の僧兵,すべての人間,すべての生物を意味している(読みは,だいしゅ,だいす,たいしゅう)。大衆の概念は,一方では〈人民people〉という概念と同一視され,他方では〈愚民foule〉というマイナス・シンボルと同一視される。マルクス主義において大衆とは,価値の創造者,歴史の主体的存在としてみなされ,社会主義革命の担い手となる労働者,農民を意味する。…
…
【語義】
複数の人びとが持続的に一つの共同空間に集まっている状態,またはその集まっている人びと自身,ないし彼らのあいだの結びつきを社会という。この定義では,街頭の群集や映画の観衆のような流動的・一時的な集りは排除されているが,人びとのあいだに相互行為があるとか役割関係があるとか共通文化があるとかいったような,社会学的によりたちいった限定についてはまだふれられていない。これらの点の考察はもう少しあとの段階で述べよう。…
…したがって,大衆とは,歴史における創造的価値を実現する存在として認められながらも,現実には,受動的・非合理的な存在としてあるといわなければならない。 また,大衆の概念は,群集から公衆へ,さらに大衆へ,という連関でも考えられる。コミュニケーションの発展形態で分けると,会話や演説などのパーソナル・コミュニケーションで結ばれている集団が〈群集〉で,手動印刷機で印刷されたせいぜい数万部程度の新聞やパンフレット類の読者が〈公衆〉,そして現代のマスコミの受け手が〈大衆〉である。…
※「群集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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