カクテル(読み)かくてる(英語表記)cocktail

翻訳|cocktail

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カクテル」の意味・わかりやすい解説

カクテル
かくてる
cocktail

一般には飲用の直前に種々の酒類、果汁、シロップなどを混ぜて、特徴ある新しい香りと味をつくりだして飲む、一種の混成飲料のことである。ただし、一部にはカクテルの瓶詰、缶詰も市販されている。

[原 昌道]

由来

カクテルは18世紀末から19世紀にかけて、アメリカで始まったもので、カクテルの名の由来についてはいろいろな説がある。古代メキシコのトルテカ人の一貴族が珍しい調合酒をつくって、美しい娘のコキトルXochitolの手で国王に献上したところ、王は非常に喜んでこの酒をコクトルXoctlと命名したという説、またアメリカ、ニュー・オーリンズの薬酒商、アントニー・ペイショーが調合した卵酒のような混成酒を人々がコクテエーといって愛飲したのが始まりという説、またcock tail(おんどりの尾)に由来する説もある。いずれにせよ18世紀の末にアメリカで発達し、20世紀になって世界に普及した。日本では明治初期に鹿鳴館(ろくめいかん)で供されたという。1920年代には東京にカクテルバーが開かれた。

[原 昌道]

種類

カクテルの種類は数千種あるといわれるが、大きく分けて、ショートドリンクスロングドリンクスに分かれる。

 ショートドリンクスはいわゆる本格カクテルであり、そのなかには、ジンをベースにしたマテニー(マティーニ)、ギムレットウイスキーをベースにしたマンハッタンオールドファッションブランデーをベースにしたアレキサンダー、サイドカー、ウォツカをベースにしたスクリュードライバー、ラムをベースにしたダイキリなどがある。これらはいずれもカクテルグラスを用い、量は60ミリリットル程度で、二口(くち)か三口で短時間に飲み干すのが正しいとされている。そのほか変わったものとしてプースカフェとフラッペがある。前者は、リキュールや蒸留酒、シロップなどいろいろな色彩のものを、比重の重いものから順に混ざらないようについだもので、かつて五色酒といわれて流行したプースカフェナンバーワンやエンゼルキッスなどがある。後者のフラッペは、細かく砕いた氷をグラスに山盛りに詰め、リキュールなどを注ぎ、カットストローで飲む。ベネディクティンフラッペなどが知られている。

 ロングドリンクスは比較的時間をかけて飲むもので、量も多くつくられる。フィズ(泡)は蒸留酒に炭酸水と氷を加えた飲み物で、ジンフィズが有名。ハイボールは蒸留酒を炭酸水で割った飲み物をいい、ウイスキーを用いたものがよく飲まれる。サワーは蒸留酒などに酸味を加えた飲み物で、ウイスキーサワーなどがある。クーラーは酒精含有と無酒精のものがあり、前者は蒸留酒にレモンジュースライムジュースなどの甘酸味を加え、ジンジャーエール、ソーダなどで割った清涼感のある飲み物で、ボストンクーラーなどが知られている。ジュレップは凍る寸前に飲むミントの香りをもった飲み物で、タンブラーに砕氷を詰め、別のグラスに酒をつぎ、ミントの若葉と砂糖を加えて軽くつぶし、ミントを除いてから前のタンブラーについで、表面が氷結するまでスプーンで混ぜる。かならずミントの小枝または葉を飾りにつける。ラムジュレップなどがある。コブラーは暑いときの疲労回復によいとされる飲み物で、砕いた氷とフルーツシロップとベースとなる酒の混合酒である。クラレットコブラーなどがある。デージー(ヒナギク)は蒸留酒にレモンジュース、ライムジュース、シロップ、砂糖などの甘酸味を加えた飲み物である。スリングは蒸留酒にチェリーブランデーなどの甘酸味をつけ、水で割ったもので、シンガポールスリングなどがある。そのほかアメリカの代表的な飲み物にエッグノッグがある。これは卵と牛乳と酒からなる滋養に富んだもので、クリスマスなどによく飲まれる。パンチはパーティー用飲み物としてつくられ、クラレットパンチなどが有名である。

[原 昌道]

作り方

各カクテルにはそれぞれ処方が決められており、それに従ってつくる。材料を混ぜ合わせる方法には、シェーカーを使う方法とミキシンググラスで混ぜる方法(ステア)がある。前者はジュース、砂糖、ミルク、卵など混ざりにくい材料を使う場合に用いる。後者は酒と酒、酒とシロップなど比較的混ざりやすいものを使うときに用いる。いずれも決まった分量の酒などを入れ、その後氷を加え、手早くシェークするか、ステアすることが必要である。

[原 昌道]

飲み方による分類

カクテルは冷たい飲み物であるから、温まらないうちに飲み干す。なおカクテルは飲む時と場所によって種類が異なる。それを分類すると次のようになる。

(1)アペタイザーカクテル 食欲増進の意味で飲まれる軽いカクテル。マンハッタン、マテニーなど。

(2)クラブカクテル オードブルやスープのかわりに供され、色が美しく滋養に富んだカクテル。クローバークラブ、バーミューダローズカクテルなど。

(3)アフターディナーカクテル 食後のカクテルで甘味の強いもの。アレキサンダーなど。

(4)サパーカクテル 晩餐(ばんさん)用の辛口カクテル。アブサンカクテルなど。

(5)ナイトキャップカクテル 就寝前のカクテル。コアントロー、アニスやエッグブランデーを用いたカクテルが多い。

(6)シャンパンカクテル 祝宴に用いられるカクテル。

[原 昌道]

原料

カクテルの製法は、ベース(基酒)を決め、これに味や香り、色を添えていく。果実(果汁)としてはレモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、オリーブ、チェリーなどが使われる。そのほか、甘味用に各種シロップ、味を引き締めるためにビターズ(苦味酒)や各種香辛料、ロングドリンクスでは各種ソーダ類が使われる。また副材料としてミルク、クリーム、卵、砂糖が用いられ、ミネラルウォーターと氷は必需品である。ベースとしてはジン、ウイスキー、ブランデー、ウォツカ、ラム、焼酎(しょうちゅう)などの蒸留酒がおもに使われるが、アブサン、アニゼット、アプリコットブランデー、キュラソーなどのリキュールをベースにしたり、ベルモット、シャンパン、ワイン、清酒をベースにしたカクテルもある。

[原 昌道]

器具

カクテルに使う用具としては、混合用のシェーカーやミキシンググラス、かき混ぜるバースプーン、ミキシンググラスにかけて氷とカクテルを分けるのに使うストレーナー、酒の量を測るジガー(メジャーカップ)、ジュースをつくるスクイザー、氷割り用のアイスピック、氷を入れるアイスバスケット、ビターズを入れるビターズボトルなどがある。カクテルを入れるグラスは、ショートドリンクスのカクテル用にはカクテルグラスが、またハイボールやフィズなどのロングドリンクスには中形タンブラーが、サワーやパンチにはそれぞれサワーグラス、パンチグラスが使われる。

[原 昌道]

『木村与三男編著『新カクテール全書』(1989・ひかりのくに)』『日本バーテンダー協会編著『NBAオフィシャル・カクテルブック』(1994・柴田書店)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カクテル」の意味・わかりやすい解説

カクテル
cocktail

アメリカで創作された酒性の調合飲料。名称の由来については諸説あるがなお不明である。ジン,ウイスキー,ブランデー,ウォツカ,ラムなどの蒸留酒,シャンパン,シェリー,ベルモットなどの醸造酒,アブサン,キュラソーなどの混成酒をベース (基酒) にビタース (苦み剤) ,シロップ,ジュースなどをそれぞれの処方に合せて調合,振盪あるいは攪拌して造られる。性質上種類はきわめて多く,名を知られているものだけでも 3000種をこえるといわれ,なお各人の好み,考案によって,現在でも種々異なったものが創作されている。日本に紹介されたのは 1912年頃とされ,一般化したのは大正後期からである。

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