ロック哲学の基本概念(読み)ろっくてつがくのきほんがいねん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロック哲学の基本概念」の意味・わかりやすい解説

ロック哲学の基本概念
ろっくてつがくのきほんがいねん

概念 idea
 ロック認識論の基軸となる用語で、彼はこの用語法をデカルトから直接に学んだ。概念は「知性の直接の対象」すべてをさすとされ、そのなかには感覚与件、内省によって得られる心的所与、想像や記憶によるイメージ、抽象的概念、そしてときに思考作用そのものも含むとされることもある。知識の真偽はこれら概念の一致・不一致にありとする。問題点としては、概念が意識内のなんらかの実在とすれば、それらの背後にあると想定される物的対象の認識には至りうるか否かである。この彼の観念の概念を徹底したヒュームにおいて、イギリス経験論は懐疑論に陥ったとの批判がある。

タブラ・ラサ tabula rasa(ラテン語)
 原義は「拭(ぬぐ)われた書板」で、感覚、内省いずれの経験からも刻印を受けていない心のあり方を示す。ケンブリッジ・プラトン主義者やデカルトの生得観念説を否定し、経験論の立場を示す比喩(ひゆ)。『人間知性論』のなかでは「暗室」または「白紙」という用語しか見当たらないが初期の自然論文には使われている。この用語はロックの独創ではなく、ガッサンディに由来すると思われ、またのちに有名になったのはライプニッツの『人間知性論』によると推測される。

記述的で平明な方法 historical, plain method
 『人間知性論』の方法論で認識の考察にあたって、心の本質とか、身体の生理的運動とか、物質と観念との関係などの考察(物性的考察)を排除し、領域を心的現象に限定して、あるがままの心的現象の記述を行うことによって認識の解明を遂行しようとした。この方法は現象学的方法の先駆ともみなしうるが、ロックはこれを当時の自然科学、とりわけシドナム臨床医学の方法に学び、これを知性探求の方法として採用したものと推測される。

実在的本質・唯名的本質 real essence, nominal essence
 スコラ的実体概念を排除し、それにかわる事物把握のための基本概念。ロックは、物体を一定の構造をもった不可視の粒子の集合体として実在的本質とよび、ここから派生する現実の経験的性質を分類・整理することによって、事物の類や種が生ずるとした。この意味で類や種は実体的形相のように事物に内属するものではなく、唯名的となる。彼のねらいは伝統的な実体―本質の枠組みを自然科学の知見によって改変することにあった。

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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