アサギマダラ(英語表記)Parantica sita

改訂新版 世界大百科事典 「アサギマダラ」の意味・わかりやすい解説

アサギマダラ
Parantica sita

鱗翅目マダラチョウ科の大型のチョウで,開張は10cm前後に達し,翅は非常に横長である。和名は浅黄色(淡青色)をしたマダラチョウの意である。淡青色の斑紋は前・後翅ともにあるが,地色前翅黒色,後翅は栗色である。インド北部,マレー半島をはじめ,東アジアの温暖な地域に広く分布し,日本全国で採集されている。年3~5回の発生。1981年に成虫の長距離移動の実例が確認された。すなわち,キジョランなどガガイモ科の常緑植物の豊富な暖地林で発生し,ここを根拠地とし,ここでおもに1~2齢幼虫が越冬する。5月ころ羽化した成虫の一部が北地,寒地へ移動を始め,おもにガガイモ科のイケマに産卵する。9~10月にかけて,北地や高地の成虫は南下し,根拠地へ向かうものと推測される。近縁種リュウキュウアサギマダラIdeopsis similis,ウスコモンアサギマダラTirumala limniaceがあり,迷チョウとして九州などで採集されるが,アサギマダラより小さく,斑紋が細かいことで区別される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アサギマダラ」の意味・わかりやすい解説

アサギマダラ
あさぎまだら / 浅黄斑蝶
chestnut tiger
[学] Parantica sita

昆虫綱鱗翅(りんし)目マダラチョウ科に属するチョウ。日本では北海道から沖縄諸島に至る全土に発見される。北海道、東北地方などの寒冷地では、例外的な場合を除いて夏に少数の個体が発見されるのみであるが、これはより南方地域からの移動個体、あるいは移動個体による一時的な発生と考えられる。西南日本では夏季に山の頂上に群飛することが多い。日本以外では朝鮮半島、台湾、中国から西北ヒマラヤにわたって分布する。はねの開張は90~100ミリメートル程度で大形。雌雄の色彩や斑紋(はんもん)は同様であるが、雄では後ろばねの後方に表裏ともに黒斑状をなす光沢のない性標があり、これによって雌雄は容易に見分けられる。西南日本では5月ごろから11月ごろまで成虫の飛翔(ひしょう)をみるが、奄美(あまみ)諸島や沖縄諸島では冬を挟んで秋から春にかけて多く、夏季にはほとんどその姿をみない。飛び方は緩く、各種の草花に集まる。幼虫の食草はカモメズル、キジョラン、サクラランなどのガガイモ科植物である。アサギマダラは九州以北の日本本土に土着する唯一のマダラチョウ科の代表であるが、吐噶喇(とから)列島以南の南西諸島にはさらにリュウキュウアサギマダラ、カバマダラスジグロカバマダラ、オオゴマダラの4種の土着種がある。なお、マダラチョウ科のチョウは東南アジア地域より迷チョウとして日本に飛来するものが多く、現在まで日本、とくに南西諸島で発見されたものはマルバネルリマダラなど17種にのぼる。

[白水 隆]


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百科事典マイペディア 「アサギマダラ」の意味・わかりやすい解説

アサギマダラ

鱗翅(りんし)目マダラチョウ科の1種。分類の方法によってはタテハチョウ科とすることもある。開張100mm内外,前翅は黒色地に,後翅は褐色地に青白色の半透明紋がある。幼虫はカモメヅル,キジョランなどガガイモ科の植物の葉を食べ,幼虫で越冬するが,暖地では決まった越冬態がない。分布は日本全土,中国大陸,台湾からヒマラヤまで。
→関連項目マダラチョウ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アサギマダラ」の意味・わかりやすい解説

アサギマダラ
Parantica sita

鱗翅目マダラチョウ科。前翅長 60mm内外。前翅は黒色,後翅は赤褐色で,それぞれに淡青白色のやや透明な斑紋をもつ。美麗種。雄は後翅後角部に斑紋状の性標がある。飛翔は緩慢。年数回発生する。幼虫はガガイモ科のキジョラン,カモメヅルなどを食べる。日本全土に産し,朝鮮,中国から東南アジア,ヒマラヤ,カシミールまで分布する。 (→マダラチョウ )

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世界大百科事典(旧版)内のアサギマダラの言及

【チョウ(蝶)】より


[行動生態]
 近年の研究はめざましく新事実が続々と発表されつつある。 たとえばアサギマダラは雄が雌を見つけると追い越して前方で腹端からヘアペンシルを開く。雌がこの行動で飛び方をゆるめると雄はそのまわりを回りながら近くの葉にとまるように誘導する。…

※「アサギマダラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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