酢酸繊維素、酢酸セルロースまた簡単にアセテートともいう。セルロースの酢酸エステル。セルロースはC6単位当り3個のヒドロキシ基-OHをもっているが、このヒドロキシ基を酢酸基-OCOCH3で置換したもの。リンター(綿花の短繊維)または特別に精製した亜硫酸法パルプを無水酢酸、酢酸、硫酸の混酸とともに攪拌(かくはん)すると、3-アセチルセルロース(第一次酢酸セルロース、トリアセテートともいう)を生成する。生成した3-アセチルセルロースはアセトンに溶けないが、これを薄い酸の存在で加水分解して、セルロースに結合しているアセチル基CH3CO-の一部を取り去る(第二次酢酸セルロースという)とアセトンに溶ける。この3-アセチルセルロース(第二次酢酸セルロース)の15~24%アセトン溶液をドープという。このドープを口金の小孔(こあな)から熱風中に押し出すと糸になる。これをアセテート繊維という。プラスチックとしての利用のためには、可塑剤としてリン酸エステルやフタル酸ジブチルを約30%加える。染料や顔料で好みの色に着色し、120℃に加熱して押出し機で押し出し、粉砕してチップにする。これは一般の成形法で、セルロイドと同じ用途に用いるが、セルロイドと違い不燃性である。しかし、アセチルセルロースはニトロセルロース、アセテートブチレートやプロピオネートなどに比べて他のプラスチック類との相溶性はよくない。また、フィルムはドープをフィルム状に押し出す。写真フィルムのベースに使われる。
[垣内 弘]
酢酸繊維素,セルロースアセテートcellulose acetate(略してアセテート)ともいう。セルロースの酢酸エステルである三酢酸セルロース(トリアセテート)と第二次酢酸セルロース(アセテート)の2種類が製造されている。1869年にフランスのシュッツェンベルジェP.Schutzenberger(1829-97)がセルロースを無水酢酸と加熱して作ったのが始まりで,94年にイギリスのクロスC.F.CrossとベバンE.J.Bevanはそれに硫酸または塩化亜鉛を脱水剤として加えると速やかに反応が進行することを見いだした。セルロースはグルコース(ブドウ糖)を構造単位とする高分子であるが,その水酸基3個全部がアセチル基に置換されたのが三酢酸セルロースである。当時,三酢酸セルロースは毒性のかなり強いクロロホルムにしか溶けなかったので,1903年アメリカのマイルズG.Milesは部分的に加水分解して,アセチル基の一部を元の水酸基に戻した2.5アセチル化セルロース(第二次酢酸セルロース)を作ったところ,無毒のアセトンに溶解することがわかった。アセテートをアセトンに溶解し,乾式紡糸するとアセテート繊維が得られる。
第1次大戦のころ,織物でできていた飛行機の翼にアセチルセルロースを塗布すると空気を通さなくなることから飛行機の性能が向上した。そのため,最初はスイス,次にイギリスでその生産が増大した。大戦後は,とくに日本で繊維製造用に生産が拡大した。三酢酸セルロースは安全に取り扱える塩化メチレンに溶解することがわかり,30年ころから繊維として製造されている。セルロース原料としてはコットンリンターとパルプが使われている。アセテート,トリアセテートの性質は〈アセテート繊維〉の項の表に示す。二つのアセテートの区別は溶解法により,塩化メチレンに溶けるほうがトリアセテートである。繊維用のほか,電線やコイルの絶縁体,タバコのフィルターなど広い用途をもつ。
→アセテート繊維
執筆者:瓜生 敏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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