アセテート繊維(読み)アセテートセンイ(英語表記)acetate fiber

デジタル大辞泉 「アセテート繊維」の意味・読み・例文・類語

アセテート‐せんい〔‐センヰ〕【アセテート繊維】

アセテート

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改訂新版 世界大百科事典 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維 (アセテートせんい)
acetate fiber

アセチルセルロース紡糸した繊維で,半合成繊維の一つ。アセテートレーヨンacetate rayonともいい,略してアセテートともいう。セルロースアセテート(第二次酢酸セルロース,単にアセテートともいう)および三酢酸セルローストリアセテート)で作られる繊維をともにアセテート繊維という。アセテートは1869年に発見され,第1次大戦中飛行機の翼の塗布用として用いられていたが,戦後その用途がなくなってから,イギリスで人造絹糸として用途開発され,1921年商標セラニーズCelaneseで初めてアセテート繊維が市場に出された。絹に似た光沢をもち,伸度は大きくて羊毛と同じくらいであり,しわがよりにくい特色をもつ。

原料のセルロース(繊維素)は,紡糸用に使えない短繊維のコットンリンターおよび木材パルプが使われる。これから作ったアセテートを重量で約3倍量のアセトンに20時間くらいかけて溶解させてドープdope(アセテートのアセトン溶液)を作る。



 この反応でトリアセテートが部分ケン化され,アセチル基の約1/5がもとの水酸基に戻る。この段階で,つや消しの場合は酸化チタンを,黒色の糸が必要な場合は黒色顔料を加えておく。ドープを直径0.03mmくらいの穴のたくさんあいた紡糸口金から,毎分300~700mの速度で押し出し,高速回転しているボビンにねじりながら巻きつける。こうして,分子にいくらか配向をかけて強度を上げる。アセテート繊維は,構成する分子がきちんと配列していない非晶性構造をとっている。また,セルロースをアセチル化する反応において,セルロース分子の主鎖が切断されて,重合度(式中のn′,n″)が200~300に下がる。このため強度はレーヨンより低く,羊毛と同じくらいである。

 アセテートの染色は,分子中に反応性の基(水酸基など)が少ないことから,それほど容易でなく,塩基性染料やアミノアントラキノン系分散染料が用いられ,新しい染色法でなされる。ある種の分散染料は,燃焼ガス中に含まれる酸化窒素ガスによって退色しやすいので,退色防止のため,染色された繊維をジエタノールアミンなどで処理することがある。

 トリアセテートは,1930年ころから溶剤として無害で安価な塩化メチレンの出現により,塩化メチレン溶液から乾式紡糸されて工業化された。強度を上げるため湿式紡糸されたトリアセテート繊維もある。トリアセテートの染色性はアセテートとポリエステルの中間である。たとえば,アセテートを70℃,ポリエステルを120℃で染色できる染料は,トリアセテートを95℃で同じ色の深さに染められる。

おもな性質を表に示す。濃強酸によって分解され,強アルカリでケン化されて強度が低下する。強酸化剤には侵されるが,次亜塩素酸塩や過酸化物による漂白では損傷がない。アルコール,エーテルベンゼンには溶けない。

アセテートは軟らかく暖かい繊維であるので,ドレス,下着など衣料用に,トリアセテートは熱固定(ヒートセット)しやすいので,プリーツスカートやブラウスなど女性用衣料に,また羊毛と混紡し夏用スーツに用いられる。
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化学辞典 第2版 「アセテート繊維」の解説

アセテート繊維
アセテートセンイ
acetate fiber

セルロースの酢酸エステルである酢酸セルロースからなる人造繊維.品質表示法によれば酢化度45.0% 以上の酢酸セルロースからなる繊維をいう.ただし,酢化度が59.5% 以上の酢酸セルロースからなる繊維の場合は“トリアセテート繊維”とよんでもよいとされている.セルロースの酢酸エステル化反応は,一般に無水状態で行われ,グルコース単位の三つのOH基が全部アセチル化されたトリアセテート(第一次アセテート)を生成する.トリアセテートはアセトンに不溶のため,これに可溶にするため,アセチル基を部分的に加水分解(けん化,熟成という)させ,グルコース単位当たり,平均2.5個のOH基がアセチル化された第二次アセテート(普通,アセテート,ジアセテートともいう)として用いられる.前述の酢化には無水酢酸を酢化主剤,硫酸を触媒,希釈剤には酢酸がおもに用いられる(セルロース100部に対し,無水酢酸240~300部,硫酸7~15部,酢酸400~800部).通常のアセテート繊維は第二次アセテートよりなるフレークをアセトンに溶解し,乾式紡糸する.トリアセテート繊維は完全酢化物をジクロロメタン(85~90重量%)とメタノールまたはエタノール(10~15重量%)の混合溶剤に溶かし,乾式紡糸をするのが普通である.アセテート繊維は光沢があり柔軟で,風合いがよい.また,短いものはタバコフィルターに用いる.トリアセテート繊維は吸湿性が少なく,熱的挙動は疎水性の合成繊維に似ている.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維
あせてーとせんい
acetate fiber

セルロース(C6H10O5)nの酢酸エステルであるアセチルセルロース[C6H7O2(OH)3-m(OCOCH3)m]n(mは0~3)からなる人造繊維。アセチルセルロースのC6単位中のヒドロキシ基-OHのほとんど全部にアセチル基CH3CO-の入ったものをトリアセテートといい、クロロホルムに溶けるがアセトンには不溶である。このため、アセチル基を部分的に加水分解(けん化、熟成という)して、アセチル基が2個入ったものと、3個入ったものとの中間にもっていくと、アセトンに可溶となる(ジアセテート)。これをアセトンに溶かし15~24%溶液として細孔から熱風中に押し出すと糸になる。柔らかい風合(ふうあ)いをもち、羊毛のような感じを与える。セルロースのヒドロキシ基がアセチル化されているために水になじまない。アセチル化度53~57%のものが繊維として用いられる。熱可塑性の性質をもち、140~150℃以上で変形し始めるので、アイロンがけの温度は115~120℃を超えてはならない。またプラスチックとして写真や映画用フィルムにも用いられる。なお、アセチル化度59.5%以上のものはトリアセテート繊維とよばれ、より吸湿性が少ない繊維となる。

[垣内 弘]

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百科事典マイペディア 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維【アセテートせんい】

アセテートレーヨン,略してアセテートとも。1869年に発見され,第1次世界大戦中は航空機の翼の一部に用いられた。1921年にセラニーズcelaneseの商標で売られ一般化。アセチルセルロースを紡糸した代表的な半合成繊維。第二次酢酸セルロースからつくるアセテートと,三酢酸セルロースからつくるトリアセテートがある。比重は1.32と1.30で,羊毛とほぼ等しく,弾性が大きいためしわになりにくい。染色性に難点はあるが,専用のアセテート用染料を用いると染色できる。アイロンの温度は前者で120℃,後者で180℃まで安全。単独または羊毛と混紡して各種織物や毛布に用いられるほか,タバコのフィルターチップなどの用途もある。
→関連項目化学繊維レーヨン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維
アセテートせんい
acetate fibre

アセテート人絹とも呼ばれる。半合成繊維の一種。 1894年イギリスの化学者 C.ビバンらが特許を得たが,工業化の開始は 1920年代。日本では第2次世界大戦後,工業化。製法はα-セルロースの多いアセテート用パルプ,リンター (短綿毛) に酢酸を化学的に反応させて酢酸セルロースとし,これをアセトンの溶剤で溶解した原液を,加熱した空気の中に送りながら紡糸する。軽くて美麗,熱可塑性をもち,速く乾燥する。絹,人絹,合成繊維などと交織するが,織物,和服地,トリコット製品など衣料,夜具地などに用いられ,またアセテート短繊維はたばこのフィルタにも使われる。酢酸とセルロースを完全に反応させたトリアセテートもある。

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世界大百科事典(旧版)内のアセテート繊維の言及

【化学繊維】より

…そしてその後は,ナイロンやポリエステルなどの合成繊維コードがこれにとって代わった。世界的にはすでに1921年から工業生産に入っていた半合成繊維アセテート繊維も,日本では有機合成薬品工業の確立が遅れていたことと第2次大戦のために,工業化が著しく遅延していたが,48年から工業生産を開始した。当初さまざまな苦難の道を歩んだアセテートも,53年通産省で〈酢酸繊維工業育成対策〉を決定し,助成措置がとられたことと業界の努力とが相まって,各種衣料用に順調な発展を示した。…

※「アセテート繊維」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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