アセテート繊維(読み)あせてーとせんい(英語表記)acetate fiber

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維
あせてーとせんい
acetate fiber

セルロース(C6H10O5)nの酢酸エステルであるアセチルセルロース[C6H7O2(OH)3-m(OCOCH3)m]n(mは0~3)からなる人造繊維。アセチルセルロースのC6単位中のヒドロキシ基-OHのほとんど全部にアセチル基CH3CO-の入ったものをトリアセテートといい、クロロホルムに溶けるがアセトンには不溶である。このため、アセチル基を部分的に加水分解(けん化、熟成という)して、アセチル基が2個入ったものと、3個入ったものとの中間にもっていくと、アセトンに可溶となる(ジアセテート)。これをアセトンに溶かし15~24%溶液として細孔から熱風中に押し出すと糸になる。柔らかい風合(ふうあ)いをもち、羊毛のような感じを与える。セルロースのヒドロキシ基がアセチル化されているために水になじまない。アセチル化度53~57%のものが繊維として用いられる。熱可塑性の性質をもち、140~150℃以上で変形し始めるので、アイロンがけの温度は115~120℃を超えてはならない。またプラスチックとして写真や映画用フィルムにも用いられる。なお、アセチル化度59.5%以上のものはトリアセテート繊維とよばれ、より吸湿性が少ない繊維となる。

垣内 弘]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アセテート繊維」の意味・わかりやすい解説

アセテート繊維
アセテートせんい
acetate fibre

アセテート人絹とも呼ばれる。半合成繊維の一種。 1894年イギリスの化学者 C.ビバンらが特許を得たが,工業化の開始は 1920年代。日本では第2次世界大戦後,工業化。製法はα-セルロースの多いアセテート用パルプ,リンター (短綿毛) に酢酸を化学的に反応させて酢酸セルロースとし,これをアセトンの溶剤で溶解した原液を,加熱した空気の中に送りながら紡糸する。軽くて美麗,熱可塑性をもち,速く乾燥する。絹,人絹,合成繊維などと交織するが,織物,和服地,トリコット製品など衣料,夜具地などに用いられ,またアセテート短繊維はたばこのフィルタにも使われる。酢酸とセルロースを完全に反応させたトリアセテートもある。

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