アセビ(読み)あせび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセビ」の意味・わかりやすい解説

アセビ
あせび / 馬酔木
[学] Pieris japonica D.Don

ツツジ科(APG分類:ツツジ科)の常緑低木アシビ、アセボともいう。葉は互生し、広倒披針(ひしん)形、長さ3~8センチメートルで先はとがり、縁に細かい鋸歯(きょし)がある。3~4月、枝先に複総状花序を下垂し、白色の小花が開く。花は壺(つぼ)形で先が浅く5裂し、長さ約6ミリメートル。乾燥した山地に生え、本州の宮城・山形県以西と四国、九州に分布する。アケボノアセビは花が淡紅色で美しく、クリスマスチアー、ダイセンなどの品種がある。ホナガアセビは花序が長く伸長し、フクリンアセビは葉の縁に白斑(はくはん)があり、ヒメアセビは葉が小形で矮小(わいしょう)な低木である。庭園、公園などに植えるが、有毒植物である。有毒成分はアセボトキシンで、枝葉を煎(せん)じて殺虫剤にする。アセビ属は北アメリカと東アジアに10種分布する。

小林義雄 2021年4月16日]

文化史

万葉集』に10首詠まれているが、その多くが野外に生えたアセビのことで、当時はまだ庭の花ではなかった。大伴家持(おおとものやかもち)の「池水(いけみず)に影さへ見えて咲きにほふあしびの花を袖(そで)に扱入(こき)れな」(巻20)など『万葉集』の安之婢(あしび)に馬酔木の字をあてるのは、馬がこの葉を食べると足がしびれて動けなくなるためで、アシビおよびアセビは足しびれの意味だといわれている。おそらく大陸から馬を伴った帰化人が、アセビの有毒性に無知であったため、この葉を馬に食べさせてこの難にあい、命名したのであろう。現代の中国名の馬酔木も、日本から逆輸入されたものである。またアセビはもっとも異名の多い樹木の一つで、倉田悟の『日本樹木方言集』では153もの方言があげられている。

 江戸時代には、葉の煎汁を冷やして野菜などの殺虫剤に用いた。

[湯浅浩史 2021年4月16日]


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改訂新版 世界大百科事典 「アセビ」の意味・わかりやすい解説

アセビ (馬酔木)
Japanese andromeda
Pieris japonica D.Don

山地の風当りの強い乾いた土地に好んで生育するツツジ科の常緑低木で,多くの小枝を分けて密に葉をつける。樹高1.5~4m。葉は互生し,短い柄があって倒披針形,先はとがり,縁に低い鋸歯があり,質が厚く光沢がある。春,細長い総状花序が垂れ,多数の白色の花がつく。花冠はつぼ形で中に10本のおしべがある。葯の背面にとげ状突起があり,蜜を吸いにくる昆虫の動きによって,花粉を散りやすくしている。蒴果(さくか)は平たい球形で径5~6mm,多数の小さな種子がある。本州,四国,九州の暖温帯に分布する。有毒植物で,牛馬が食べると中毒してしびれるので,馬酔木の名がある。有毒成分は主に,アセボトキシンasebotoxinと呼ばれる苦味物質である。昔は葉を煮出して殺虫薬とした。古くはアシビといい,万葉集などの歌に詠まれている。若芽や花を観賞するため,庭木として暖地で広く植えられ,園芸品種も作り出されている。材は堅密で,薪炭材や細工物に利用される。沖縄には花がやや大きい変種リュウキュウアセビvar.koidzumiana (Ohwi) Masamuneがある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアセビの言及

【有毒植物】より

…世界にさきがけて全身麻酔を行った華岡青洲の通仙散には,チョウセンアサガオの葉が用いられた。麻痺性有毒植物としては,ツツジ科のアセビ,レンゲツツジ,ハナヒリノキなどが酩酊状態を招き手足がしびれ呼吸麻痺で死にいたる中毒をおこす。ギリシアの歴史家クセノフォンの記録には,兵士たちがツツジ科植物に由来する蜂蜜をなめて狂乱しある者は死んだ,と書かれている。…

※「アセビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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