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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
かゆみの強い慢性の湿疹で、
多くは環境中のダニや食べ物などの成分がアレルゲン(アレルギーの原因物質)となり、それらに対する免疫グロブリンE(IgE)抗体がつくられて、皮膚にアレルギー性の炎症を起こします(表7)。
小児では、卵、牛乳、小麦などの食物が原因として多くみられます。その他、イヌ、ネコなどのペットのフケや毛、体内や皮膚の表面にすんでいる
また、皮膚の最上層である
成人では、これらにより生じた皮膚の炎症が職場や家庭内の精神的ストレスで悪化することがあります。家族にアトピー素因のある人が多く、他のアトピー疾患の合併も多くみられます。
年齢によって症状が異なります。乳児期には
思春期や成人になると全身、とくに顔面、くび、胸背部などに紅斑や
アトピー性皮膚炎に単純ヘルペスが感染すると顔面や上半身などに小さな
多くはそれぞれのアレルゲンに反応する免疫グロブリンE(IgE)抗体が上昇し、血液中の総IgE抗体量も上昇します。皮膚炎の悪化時には、白血球のうちアレルギー疾患で増加する好酸球の割合が増えています。しかし約20%はIgEが上昇しないアトピー性皮膚炎として存在します。
皮膚のかさつきを抑える目的で白色ワセリンや尿素などを含んだ保湿剤を、炎症を抑える目的でステロイド軟膏を用います。免疫抑制薬の軟膏タクロリムス(プロトピック)も有効ですが、刺激感や感染症などの副作用に注意が必要です。
内服薬では抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬を用います。抗炎症作用のある漢方薬が有効なこともあります。細菌や単純ヘルペスの感染症を伴った時には、それらに対する治療が必要になります。
原因対策を行います。家のなかのダニ対策や小児では原因食物の除去を行います。ただし、過剰な食物除去は成長障害を来すため注意が必要です。皮膚の清潔を保つことは重要ですが、石鹸の使用により皮膚は乾燥するので、入浴後は保湿を十分に行います。
掻破によるびらんが著しい場合には、軟膏を塗った上にガーゼや包帯を巻いて掻破から皮膚を守ります。十分な睡眠をとることや胃腸の調子を整えること、精神的安定を図ることも重要です。
相原 道子
アトピー性皮膚炎は、
アトピー素因(アトピー体質)とは、
このアトピー素因に加え、皮膚の
かゆみを伴った湿疹病変が慢性に経過し、左右対称性に分布します。年齢などにより湿疹のできやすい場所は違ってきます。
乳児では顔面・頭部にできやすく、乳児
アトピー素因などのアレルギー検査として、血液の検査と直接皮膚で行う検査があります。
血液の検査では、白血球数などの検査のほかにIgE抗体を測定します。IgEは血液のなかに作られる抗体の一種で、アレルギー反応に関与します。さらにIgEがどのようなものに対して作られているかを調べるRAST法という検査も行われます。ダニ、ハウスダスト、卵の白身、牛乳などに陽性を示す人が多いとされています。また最近、アトピー性皮膚炎の重症度の指標となるTARC値の測定も行われるようになっています。
皮膚の検査では、パッチテストが有用です。原因あるいは増悪因子の可能性がある生活環境中の物質を背中に貼り、2~3日後に反応をみて判定します。ヒョウヒダニ、家のホコリ、カンジダ(カビ)などで高い陽性率がみられます。
治療の基本方針として、環境の整備、湿疹病変の薬物による治療、乾燥肌に対するスキンケアの3つが重要です。
生活環境に増悪因子がある場合が多いので、それらへの対策を立てるとともに、湿疹をステロイド外用薬、免疫抑制薬、その他の外用薬で治療します。かゆみに対しては抗ヒスタミン薬などの内服も効果があります。皮膚が過度に乾燥しないように保湿効果のある外用薬を入浴後などに使用して、皮膚の調子を整えます。
繰り返し起こる、あるいは慢性に続くのが特徴の湿疹なので、症状がないか、あっても気にならない程度で、日常生活に何ら支障がない状態か、症状は軽度で長引いているが急に悪くなることはなく、たとえ悪くなっても治療ですぐ落ち着くといった状態を保つことが重要です。
皮膚科または小児科を受診し、各人で異なる増悪因子を探して対策を立てるとともに、薬で湿疹を治療します。
安元 慎一郎
乾燥肌による刺激に対する過敏さ(敏感肌)とアレルギー反応に関係するIgEをつくりやすい体質(アトピー素因)に、さまざまな環境要因がきっかけになってかゆみのある皮膚炎が生じ、軽快と悪化を繰り返す慢性の病気です。
皮膚の表面をおおう角質層のセラミドなどの油の膜には、皮膚の内側の水分の蒸発を防ぐはたらきと体の外からの刺激をブロックする防御壁のはたらきがあります。また、角質層の天然保湿因子は水分を結びつけて、角質層の水分を保つはたらきがあります。アトピー性皮膚炎ではセラミドなどの油分やある種の天然保湿因子が少ないために乾燥肌になって防御壁のはたらきが低下し、日常生活でのさまざまな刺激に過敏に反応して皮膚炎を起こしやすくなります。また、食物やダニ・花粉などに対するアレルギーが悪化の原因になることもあります(図2)。
かゆみのある皮膚炎が、年齢に応じて特徴的な場所に生じます。
血液検査でIgE濃度を調べることによって、アレルギー反応による悪化の原因の見当をつけることができます。しかし、血液検査でIgEが陽性でも必ずしもその物質が実際の皮膚炎の悪化につながっているとはかぎらないので、皮膚炎の悪化に関係があるかどうかは、医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。
治療ガイドラインに沿って、発症・悪化の原因の検索と対策、スキンケア、薬物療法を適切に組み合わせます。乾燥肌による敏感肌が最大の問題なので、肌に水分と油分を補給するスキンケアは、皮膚炎のある時だけでなく調子のよい時にも必要です。また皮膚炎があると、汗や
現在、最も効果的な抗炎症薬として、ステロイド外用薬が世界中でいちばんよく使われています。また、免疫調整薬という新しい塗り薬や、かゆみを和らげる抗ヒスタミン作用のあるのみ薬も症状に応じて使用します。
アトピー性皮膚炎の悪化の原因は人によってさまざまで、季節・年齢などによっても異なります。医師と相談しながら、皮膚炎を悪化させる原因とその対処法をよく理解し実践することが大切です。
加藤 則人
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
かゆみのある湿疹(しっしん)が慢性的に繰り返しおこる皮膚疾患。日本皮膚科学会および日本アレルギー学会が合同で作成している『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン』(2018)では、「増悪と軽快を繰り返す瘙痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている(「アトピー素因」については後述)。
[高増哲也 2020年3月18日]
診断は、(1)かゆみ、(2)特徴的皮疹(ひしん)と分布、(3)慢性・反復性経過(6か月以上、ただし乳児は2か月以上)の三つを満たすことで行われる。かゆみは、皮膚温の上昇や発汗、気持ちが落ち着かないとき、物事に集中していないときなどに増強しやすく、睡眠障害の原因となるなど、生活の質(quality of life:QOL)を損なう要因となる。
[高増哲也 2020年3月18日]
症状の特徴として、湿疹は額、眼(め)の周囲、口の周囲、耳介周囲、首、四肢の関節部、体幹にみられやすいこと、しばしば左右対称に現れること、ドライスキンを伴いやすいことがあげられる。
アトピー素因とは、アレルギー疾患(気管支喘息(ぜんそく)、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)の家族歴・既往歴、またはアレルギー反応に関与している免疫グロブリンE(IgE)抗体を産生しやすい素因(体質)のことをさす。アトピー素因はアトピー性皮膚炎の病態にかかわりがあるが、診断の必須(ひっす)項目ではない。
[高増哲也 2020年3月18日]
治療の基本は、(1)スキンケア、(2)薬物療法、(3)悪化因子対策である。
スキンケアは、皮膚を清潔に保ち、かつ保湿された状態にすることである。清潔のためにはせっけんを十分に泡立てて用いること、皮膚のしわを伸ばして洗うこと、せっけん成分を十分に洗い流すことがポイントとなる。保湿が必要な場合には、入浴後速やかに保湿薬・保護薬などのスキンケア用品を塗布する。
薬物療法では、皮膚におきている炎症を抑えることを目的として、ステロイドの外用薬または免疫抑制薬の外用薬を塗布する。適度な強度の薬剤を適量使用することで、十分な効果をあげることができる。なお薬物療法においては、症状の悪化時にのみ外用療法を行う(リアクティブ療法)よりも、症状の再燃を予防するために、症状が落ち着いているときにも間隔をあけて外用療法を行う「プロアクティブ療法」が勧められている。
悪化因子対策は、「どういう状況でどの部位の症状が悪化するのか」といった事実の確認によって悪化因子をみつけ、それについての対策を行うものである。たとえば夏季に関節の屈曲部を中心に悪化がみられる場合は、汗が原因となっていると考えられるので、汗をかくたびにこまめにシャワーを浴びる。冬季に広範囲にドライスキンとなっている場合は、乾燥が原因となっていると考えられるので、入浴直後に保湿薬を塗布するなどの対策をとる。
かゆいときにかくことは避けがたい。かかないようにと考えるよりも、適切な治療でかゆみが落ち着くように導くことが大事である。
[高増哲也 2020年3月18日]
語源はギリシア語で〈奇妙な皮膚炎〉を意味する。1923年にA.F.コカが提唱した〈アトピー〉性の素因による皮膚炎という意味で名づけられた。典型的な経過をとる場合,まず乳児期に顔面,頭部にかゆみの強い赤い発疹が現れ,かきこわすと汁が出てくる。やがてこのかゆい発疹は全身の皮膚に広がり,悪化と改善の波をくりかえすようになる。改善したときには,皮膚には赤みはなくなり,梨の肌のようなぶつぶつが背や胸にみられる程度になる。これを〈アトピー皮膚〉という。小児期になると,ひじの内側,ひざの裏などにかゆみの強い米粒大の発疹が現れ,それが長年にわたり持続する。これを〈ベニエー痒疹(ようしん)prurigo Besnier〉という。
小児期になると,気管支喘息(ぜんそく)や,喘息のように気管内が狭くなる傾向のある気管支炎(喘息様気管支炎)を合併することがまれでない。そのため,この病気は1928年ころにアトピー性皮膚炎と命名されるまでは,喘息湿疹asthma-eczemaとも呼ばれていた。
治療を続けていると,大人になるまでに治癒してしまう症例もあるが,発疹が高度で頻繁に再発する場合は概して大人になっても治らないことが多い。そのような場合は,40~50歳代までかゆい赤い発疹(湿疹と称される)が全身処々にくりかえし生じてきて,かゆみに悩まされる。
アトピー性皮膚炎の原因は1980年代半ばまではまったくわからなかった。それまではふけのアレルギーであるとか,クロムや水銀,ニッケルなど金属のアレルギーでアトピー性皮膚炎様になることを仮性アトピー性皮膚炎pseudoatopic dermatitis(Shanon,1965)と称したことはあっても,真の原因は不明であった。1967年に石坂公成が血清中の抗体IgEを発見,次いでこれがアトピー性皮膚炎では1000単位以上,ときには数千単位から2万単位にも上昇することが判明した。そのIgEを上昇させている原因のアレルゲンを調べてみると,ダニ,家の中のごみ(ハウスダスト),カンジダやピチロスポルムのようなカビ,卵,牛乳,小麦,米,大豆のような食品,犬や猫のふけ,スギ花粉などに反応するIgEであることがわかった。乳児期には食品へのアレルギーが目だち,2歳を過ぎるとダニのアレルギーの出てくる傾向や,成人で重症だと概してIgEが高値で,1人でいろいろなアレルゲンに反応する傾向(多価アレルギー)が判明した。1990年ころ,さらに検査法が進歩して,強いアレルギーが正確に測定できるようになると,それまでの検査法ではわからなかった異常に強いダニ・アレルギーのあることが明らかになった。1990年中ごろに行われた厚生省の班研究では,このような人家にたくさんいて,刺さないが強いアレルギーをおこすヒョウダニDermatophagoidesがさらにⅣ型という遅くて強いアレルギーも起こし,患者宅のカーペットや畳,ふとん,ソファなどにこのダニが多くいて,ダニの多い環境を改善すると,80%以上の率でよく治ることが判明,主因はかなりわかってきたといえる。
軽症の場合は,ステロイド軟膏の外用,抗アレルギー剤の内服と,スキンケアといって,毎日入浴して清潔にし,保湿剤を塗って乾燥を防ぐ治療でよい。顔には長い間ステロイド軟膏を塗ってはいけないが,他の部位は塗ったほうがよい。悪化して重症化したらRASTやパッチテストで正確に原因アレルゲンを調べ,ダニが主因とわかったら,自宅のどこにダニがいるか(ダニ相)を検査で調べ,フローリングや防ダニ用品に置き換えて確実にダニを減らすと,よくなることが多い。
執筆者:中山 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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