アミノ酸生合成阻害型除草剤(読み)あみのさんせいごうせいそがいがたじょそうざい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

アミノ酸生合成阻害型除草剤
あみのさんせいごうせいそがいがたじょそうざい

除草剤を阻害作用で分けたときの分類の一つ。グルタミンの生合成を阻害するグルタミン合成酵素阻害除草剤と、必須(ひっす)アミノ酸である分岐アミノ酸の生合成を阻害する分岐アミノ酸生合成阻害除草剤、ならびに芳香族アミノ酸の生合成を阻害する芳香族アミノ酸生合成阻害除草剤がある。

[田村廣人]

グルタミン合成酵素阻害除草剤

グルタミン合成酵素阻害除草剤は、グルタミン酸アンモニアからグルタミンの生合成を触媒するグルタミン合成酵素を阻害する。その結果、植物特有のアンモニア同化の攪乱(かくらん)、植物の生育に必要なグルタミンやグルタミン酸の欠乏がおこる。とくに、グルタミン酸欠乏は、光呼吸に関係するグリコール酸グリオキシル酸の蓄積を引き起こし、光合成の停止の原因となる。したがって、植物に対して光合成阻害型除草剤と類似した症状をもたらす。

 グルタミン合成酵素阻害除草剤には、放線菌(ストレプトミセス・ハイグロスコピクス=Streptomyces hygroscopicus)の培養液から単離された二つのアラニンと含リンアミノ酸とのトリペプチドを基本骨格とするビアラホスがある。ビアラホスは、除草活性を示さないが、植物体内で二つのアラニンが脱離し、グルタミン酸と構造が類似した活性本体の含リンアミノ酸に代謝される。ビアラホスの活性本体である含リンアミノ酸を化学合成した除草剤がグルホシネートである。

 グルホシネートは、ほとんど植物体内で代謝されないため、農作物に対し選択作用性のない茎葉処理剤である。一年生ならびに多年生雑草の非選択性除草剤として果樹園、非農耕地などで広く使用されている。一方、土壌微生物(ストレプトミセス・ビリドクロモゲネス=Streptomyces viridochromogenes)が保有するグルホシネートを不活性化する酵素(ホスフィノスリシンアセチル基転移酵素=Phosphinothricin Acetyl-transferase:PAT)の遺伝子を作物に導入した遺伝子組替え作物は、グルホシネートを無毒化できるため耐性作物として広く栽培されている。なお、ビアラホスは、ナミハダニミカンハダニなどのハダニ類にも殺ダニ効果を示す。

[田村廣人]

分岐アミノ酸生合成阻害除草剤

分岐アミノ酸生合成阻害除草剤は、分岐アミノ酸(バリンロイシンイソロイシン)生合成の律速過程であり最初の反応過程を触媒する鍵(かぎ)酵素のアセト乳酸合成酵素(acetolactate synthase:ALS)を阻害する。その結果、正常なタンパク質の生合成ができなくなり、植物の生育が停止して枯死するとされている。

 分岐アミノ酸生合成阻害除草剤には、スルホニル尿素を基本骨格とするスルホニル尿素系除草剤、イミダゾリノンを基本骨格とするイミダゾリノン系除草剤およびピリミジニルサルチル酸を基本骨格とするピリミジニルサルチル酸系除草剤がある。分岐アミノ酸生合成阻害除草剤の特徴は、低薬量で除草効果を発揮することであり、圃場(ほじょう)での使用薬量が10アール当り数グラムで除草効果を発揮する除草剤もある。

[田村廣人]

スルホニル尿素系除草剤

スルホニル尿素系除草剤は、本来の基質であるピルビン酸のALS結合部位とは異なる部位に結合し、低濃度でALS活性を阻害する。その結果、雑草に、成長の停止や茎葉の退色、組織の壊死(えし)をもたらし枯死させる。

 日本では1987年(昭和62)の実用化後、数多く開発され、水田、畑および非農耕地で茎葉処理剤や土壌処理剤として、一年生や多年生の広葉雑草やカヤツリグサ科の雑草の防除に広く使用されている。とくに、スルホニル尿素系除草剤とイネ科雑草に効果を発揮する除草剤とを混合することにより、水稲用の除草剤(水稲一発処理除草剤)として広範囲に使用されている。しかし、1995年(平成7)ごろより、日本の水田でスルホニル尿素系除草剤が除草効果を示さない雑草が出現してきた。

[田村廣人]

イミダゾリノン系除草剤

ALSを阻害するイミダゾリノン系除草剤(イマザピル、イマザキン、イマザモックス)は、ALSへの結合様式の詳細は不明である。畑および非農耕地で土壌処理剤や茎葉処理剤として、とくに、一年生広葉雑草の防除に使用されている。

[田村廣人]

ピリミジニルサルチル酸系除草剤

ALSを阻害するピリミジニルサルチル酸系除草剤(ピリミノバックメチル、ビスピリバックナトリウム、ピリチオバック、ピリミスルファン)は、日本では1996年に実用化され、水田の湛水(たんすい)土壌処理条件下で、一年生広葉雑草やカヤツリグサ科雑草などの幅広い水稲雑草に効果を発揮する。とくに、ピリミスルファンは、他の除草剤と混合することなく、水稲一発処理除草剤としての性能を発揮し、スルホニル尿素系除草剤に耐性を示す雑草にも効果があるといわれている。ピリチオバックは、日本では使用されていないが、海外のワタ栽培地域で使用されている。

[田村廣人]

芳香族アミノ酸生合成阻害除草剤

芳香族アミノ酸生合成阻害除草剤には、有機リン骨格をもつグリホサートがあり、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)生合成経路であるシキミ酸経路の5-エノールピルボイルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(5-enolpyruvoylshikimate-3-phosphate synthase:EPSPS)を阻害する。グリホサートは、EPSPSの基質であるエノールピルビルリン酸と構造が類似しているためEPSPSと複合体を形成し、その活性を阻害する。その結果、植物は、芳香族アミノ酸が生合成されず、これらのアミノ酸に由来する植物ホルモンのインドール酢酸や植物にとって必要不可欠な二次代謝物質の減少をもたらし、枯死に至る。グリホサートは、浸透移行性がよく、茎葉から吸収され、植物の地下部まで移行し、また、植物体内でほとんど代謝されないため、植物間での選択性がない。このため、グリホサートは、非選択性の茎葉処理剤として一年生雑草、多年生雑草および雑灌木(かんぼく)まで幅広い効果を発揮する。動物にはシキミ酸経路がないため、グリホサートの動物への毒性は低いとされている。また、グリホサートは、土壌中では土壌微生物の作用により速やかに分解される。グリホサートに耐性を示す微生物(アグロバクテリウム=Agrobacterium)のEPSPS遺伝子を作物に導入した多くのグリホサート耐性遺伝子組換え作物が作出され、グリホサート耐性遺伝子組換え作物として広く栽培されている。

[田村廣人]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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