土壌微生物(読み)どじょうびせいぶつ(英語表記)soil microbe

精選版 日本国語大辞典 「土壌微生物」の意味・読み・例文・類語

どじょう‐びせいぶつ ドジャウ‥【土壌微生物】

〘名〙 地表面または土壌粒子の表面および間隙中に生活する微生物の総称。細菌類放線菌類・子嚢菌類・担子菌類酵母菌類・藻類・原生動物など。数・量ともに莫大で、その生活活動は土壌の生成高等植物の生育に影響を与え、物質循環上きわめて大きな役割を果たす。

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デジタル大辞泉 「土壌微生物」の意味・読み・例文・類語

どじょう‐びせいぶつ〔ドジヤウ‐〕【土壌微生物】

土壌中に生息する微生物。細菌・放線菌・糸状菌・藻類・原生動物・線虫など。生物遺体を分解し、自然界における物質循環に重要な役割を果たしている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「土壌微生物」の意味・わかりやすい解説

土壌微生物
どじょうびせいぶつ
soil microbe
soil microorganism

土壌中に生息する微生物をいう。土壌中には、細菌、放線菌、糸状菌(カビ)、藻類、原生動物、線虫類などきわめて多種多様の微生物が生活している。その活動は、自然界における物質循環に大きな役割を果たすとともに、土壌の性質に変化を与え、植物の生育に重要な影響を及ぼしている。

 土壌中の微生物のうち、もっとも多いのは細菌類で、1グラムの土壌中には数千万から数十億が生息している。細菌類の種類、作用はさまざまで、有機物の分解のほか、空気中の遊離窒素の固定、硝化、脱窒など特異的な作用をもったものもある。細菌に次いで多いのが放線菌で、土壌1グラム中に数万から数百万が生息し、複合脂質セルロースキチンなど分解しにくい有機物に作用する。糸状菌は一般には放線菌よりやや少ないが、森林土壌には多く含まれる。糸状菌には高等な糸状菌である担子菌類(キノコ類)も含まれ、セルロース、リグニンなどを分解する能力をもっているが、水田土壌には少ない。藻類はおもに土壌の表面近くに生息しており、水田土壌に多い。藍藻(らんそう)類、緑藻類が多く、藍藻類のなかには空中窒素を固定するものもある。

 これら土壌微生物が果たすもっとも大きな役割は、自然界における物質循環である。植物が生育した有機物を、土壌中の微生物の働きによって、炭酸ガス(二酸化炭素)と水に分解する。また、窒素の循環に関しても、有機物の分解によるアンモニアの生成、硝化細菌によるアンモニアの硝酸化成、脱窒細菌による硝酸の脱窒、根粒菌による空中窒素の固定など、いずれも土壌中の微生物の作用によるものである。このような物質循環の過程は、土壌の性質にも影響を与え、農業上重要な意義をもつ。有機物の分解に際し、微生物の働きが適度で、分解が適当な速さであれば、一部は直接高等植物に利用され、一部の有機物は高分子の腐植となって養分の貯蔵の役割を果たすとともに、土壌の物理性の改善に役だつ。寒冷で湿潤な所では、こうした微生物の作用がほとんどないため、植物が未分解のまま残って泥炭として蓄積され、農作物の栽培は不可能な場合が多い。また、熱帯の畑地では、逆に微生物の作用が盛んで有機物の分解が速いため、腐植が残らず、可溶性となった養分が流亡するため、土壌の肥沃(ひよく)度が低下する。とくに有機物の分解の過程で、微生物の作用によって生ずる種々の窒素の形態は、肥沃度や肥料の効果に深い関係をもっている。このように、植物の生育は土壌微生物の種類、活性によって影響を受けるが、他方、土壌微生物相も植物の影響を受ける。生育中の植物の根はアミノ酸、糖など微生物が好んで利用する多くの物質を分泌する。このような根から分泌される物質の影響を受ける範囲を根圏(こんけん)とよぶが、根圏の微生物相は、根の影響を受けない土壌とは著しく異なる。根系生息菌といわれる微生物相にあっては、高等植物の根に直接寄生、あるいは根の周囲に生息している。マメ科根粒菌は植物と共生関係にあり、植物に空中から固定した窒素を供給すると同時に、植物から光合成産物である炭水化物の供給を受けている。菌根菌も同様の共生関係にある。しかし、なかにはアブラナ科作物の根こぶ病菌のように根に寄生して害を与えるものもある。また、土壌中の微生物は互いに競合しながら生活している。放線菌のなかには、抗生物質を生産して細菌類の生育を抑制するものもある。さらに、同一作物を連作すると、特定の土壌病原菌や植物寄生性線虫の数が増えたり、あるいは活性が高まって、立枯病、つる割病などの土壌病害や根こぶ線虫病などの発生が多くなる。このように土壌中では多くの微生物が生存し、植物と微生物、あるいは微生物どうしが互いに影響しあい、複雑な様相を呈して生活しているが、個々の微生物の役割についてはまだ不明な点が多い。

[梶原敏宏]

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改訂新版 世界大百科事典 「土壌微生物」の意味・わかりやすい解説

土壌微生物 (どじょうびせいぶつ)
soil microorganism

土壌中に存在する微生物で,細菌,放線菌,糸状菌,藻類,原生動物などをいう。肥沃な表土には,土壌1g当り細菌数が数十億,糸状菌の菌糸長が数百m,微生物の生体重が土壌有機物量の数%に達することがある。細菌は,エネルギーと炭素源を有機物から獲得している有機栄養細菌(従属栄養細菌)と,エネルギーは無機物の酸化や光エネルギーから,また炭素源は二酸化炭素から獲得している無機栄養細菌(独立栄養細菌)に分けられる。また,酸素の要求の有無によって好気性細菌と嫌気性細菌に分けられる。細菌は植物遺体などの有機物の分解に関与するのみならず,窒素固定や脱窒作用を営む重要なグループを含み,無機栄養細菌は,硝酸生成作用,イオウ,鉄,マンガンなどの無機元素の酸化に関与し,土壌の物質循環の重要な担い手である。放線菌は細菌と糸状菌の中間に位置する有機栄養生物で,多様な有機物を基質として生育し,キチンの分解にあずかる。糸状菌は基質として利用する有機物の種類で糖類糸状菌,セルロース分解糸状菌,リグニン分解糸状菌に分けられる。細菌にくらべて一般に耐酸性が強く,酸性土壌においてとくに有機物分解に重要な作用を行っている。藻類のおもなものは,緑藻,ラン藻,ケイ藻であり,光エネルギーを利用する無機栄養生物である。ラン藻のあるものは窒素固定能を有し,水田の肥沃化に役だっている。原生動物はアメーバ,繊毛虫,鞭毛虫に分けられる。これらはいずれも土壌水中で生活しており,多くは植物遺体,細菌,放線菌,糸状菌,藻類を食べている。

 土壌微生物による有機物の分解は農業上重要である。堆厩肥(たいきゆうひ),緑肥,根や切株のような作物残渣(ざんさ),雑草など各種の有機物が毎年農耕地に加えられるが,高等植物によってはこれらの有機物が適当な速さで分解され,その成分が利用に供されることが必要である。この際有機物の一部は腐植となって養分の貯蔵となるとともに,団粒化を促進し,土壌の物理的条件を改良する。土壌微生物は窒素の形態変化に関与し,土壌の肥沃度や肥料の効果に影響を及ぼしている。有機物の分解によるアンモニア生成,その硝酸への変化,硝酸の脱窒,空中窒素の固定などはいずれも微生物の作用である。土壌微生物のうちあるものは,高等植物の根に共生または寄生して生活している。マメ科植物と根粒菌や菌根が前者の例であり,土壌伝染性病原菌が後者の例である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「土壌微生物」の意味・わかりやすい解説

土壌微生物
どじょうびせいぶつ
soil microbes

土壌中に生活する微生物のすべてをさす。細菌類,藍藻類,鞭毛藻類,ケイ藻類,単細胞の緑藻類,酵母菌類,糸状菌類,原生動物の繊毛虫類やアメーバ類など。また超顕微鏡的生物であるリケッチア,ウイルスなども考えなければならない。これらは微小な動物,たとえば線虫類,ダニ類などを含めて水中に生活するプランクトンに対してエダフォン edaphonという。なおこれらの種類や分布については次第に判明しつつあるが,その生活についての相互関係,消長など,生態的な面は,重要なことであるが,まだ知られていない点が多い。 1960年代になって,大気汚染や水質汚濁により,重金属や有害ガス,酸性雨などの影響が問題になり,都市内の汚染地域で,汚染度と相関的に,放線菌など特定微生物の極端な減少がみられることがわかってきた。物質循環のかなめが異変を生じた場合,環境に影響を生じるかどうかは不明ではあるが,好ましい状態とは思われない。硫黄酸化物,窒素酸化物などが地上に落下した際,土壌がなんらかの緩衝能力を働かせているという報告もある。

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栄養・生化学辞典 「土壌微生物」の解説

土壌微生物

 土壌の表面もしくは内部で生活する微生物.

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