アリクイ(読み)ありくい(その他表記)anteater

翻訳|anteater

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アリクイ」の意味・わかりやすい解説

アリクイ
ありくい / 蟻食
anteater

哺乳(ほにゅう)綱貧歯目アリクイ科に属する動物総称。同科Myrmecophagidaeにはオオアリクイ属1種、コアリクイ属2種(キタコアリクイ、ミナミコアリクイ)、ヒメアリクイ属1種の3属4種が含まれ、中央・南アメリカの草原や森林地帯にすむ。

 体の大きさはオオアリクイが体長1~1.3メートル、尾長65~90センチメートル、体重18~39キログラム、もっとも小さなヒメアリクイでは体長15~23センチメートル、尾長17~35センチメートル、体重370~450グラムほどである。耳はいずれも小さくて丸い。尾は長く、オオアリクイでは長い毛で覆われ、コアリクイ、ヒメアリクイでは短い毛で覆われていて、木の枝などに巻き付けることができる。また、いずれも前身をおこし、尾で体を支えることができる。前肢に4本、後肢に5本ある指のつめは長くて鋭く、とくに前肢の第3指のものは顕著で、シロアリの巣を崩すだけでなく、武器として役だっている。オオアリクイは歩くときに前肢の背面をつけるが、コアリクイでは地上を走るときだけみられる。

 貧歯目の他科(アルマジロ科、ナマケモノ科)と異なり、歯はまったくなく、頭骨は長く伸び、口先は小さく円筒状で、先端は小さく、長い舌が出入りする。舌には粘着性の唾液(だえき)がつき、餌(えさ)となるアリやシロアリを付着させて飲み込む。唾液を分泌する唾腺(だせん)は大きく胸まで達し、一部が口の近くに開孔している。胃は単一で筋肉に富み、盲腸は小さい。嗅覚(きゅうかく)の発達はよく、実験では人間の40倍の能力があるという結果があるが、視覚と聴覚は弱い。

 オオアリクイは地上性で日中も夜間も活動するが、コアリクイとヒメアリクイは樹上性でおもに夜間活動する。いずれも群れをつくることはなく、単独か親子で生活する。餌はシロアリ、アリ、甲虫の幼虫などで、飼育下では卵黄、牛乳、ひき肉ウシの肝臓、ドッグフードなどを使用する。妊娠期間はオオアリクイで190日、1産1子で、子は親の背にしがみついて運ばれる。寿命はオオアリクイの飼育例では19年であるが、野生の状態ではよくわかっていない。

[齋藤 勝]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「アリクイ」の意味・わかりやすい解説

アリクイ (蟻喰)
anteater

円筒状の頭部から突出する細長い口吻(こうふん)部と長い舌をもつアリ食の,貧歯目アリクイ科Myrmecophagidaeの哺乳類の総称。オオアリクイMyrmecophaga tridactyla,ミナミコアリクイTamandua tetradactyla,キタコアリクイT.mexicana,ヒメアリクイCyclopes didactylusの4種がある。メキシコ南部から中央アメリカを経て南アメリカのパラグアイに至る熱帯林やサバンナに生息する。

 前記の特徴のほか,前脚の強大でとがったつめ,完全に退化した歯,食物をすりつぶす強力な胃の筋肉など,アリを食べるために極端に特殊化した形質をもつ。前脚のつめでアリやシロアリの塚を壊し,細長い,粘液のついた舌でアリなどをなめとって食べる。オオアリクイの場合,つめは敵から身を守る強力な武器としても使われる。育子中の雌を除いて,単独で生活する。

 オオアリクイは体長1~1.2m,尾長70~80cmで地上生。夜間あるいは人家のない所では日中でも,アリやシロアリの塚を求めて移動する。一定の巣はもたず物陰で丸くなって休む。コアリクイは体長54~58cm,尾長54~58cm,ヒメアリクイは体長16~20cm,尾長18~20cm。前者は半樹上生,後者は完全な樹上生で,両種とも枯木につくられたアリやシロアリの巣を求めて夜間活動し,日中は樹洞や木の枝の上で休む。3種ともふつう1産1子。

 ほかにアリ食の哺乳類としてオーストラリアのフクロアリクイMyrmecobius fasciatus(有袋目),アフリカのツチブタOrycteropus afer(管歯目),アフリカや東南アジアのセンザンコウManis(有鱗目)などがある。これらもときにアリクイと呼ばれる。いずれもアリやシロアリの豊富な熱帯および亜熱帯の生活に適応した動物である。
貧歯類
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「アリクイ」の意味・わかりやすい解説

アリクイ

貧歯目アリクイ科の哺乳(ほにゅう)類4種の総称。メキシコ南部〜アルゼンチン北部,トリニダード島に分布。歯がなく,アリ,シロアリを細長い舌でなめて食べる。オオアリクイが最も普通。コアリクイは体長60cmほどで木登りがうまい。ヒメアリクイは体長15cmほどで樹上性,前種とともに蜂蜜(はちみつ)も食べる。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アリクイ」の意味・わかりやすい解説

アリクイ
Myrmecophagidae; anteater

貧歯目アリクイ科の動物の総称。オオアリクイコアリクイ,オナガコアリクイ,ヒメアリクイの4種が含まれる。体長 15~120cm。口が小さく,歯はまったくなく,長い舌でアリやシロアリなどを食べる。メキシコからパラグアイにかけての熱帯雨林,草原にすむ。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android