ロシアの小説家。自由主義的な社会批判の色濃い短編小説作家として,1901年文壇に登場したが,05年の革命以後,ロシア・インテリゲンチャの挫折感を反映した作品を書き,性と暴力と死の描写にもっぱら取り組んだ。自由恋愛と肉欲の解放を説いた長編小説《サーニン》(1907)は〈性の解放〉を主張する20世紀ヨーロッパ文学一般の時流に投じ,世界的なセンセーションを呼んだ。アルツィバーシェフは,ニーチェ風の個人主義,アンドレーエフ流のニヒリズム,ロシア象徴派の〈愛と死の神秘思想〉の影響を受けた典型的なモダニズムの作家であるが,他方トルストイやドストエフスキーの影響も強く(例えば小説《ランデの死》(1904)におけるムイシキン公爵的主人公の唱える悪に対する無抵抗),《サーニン》も自らの感覚的欲望に忠実であれという主張の是非は別として,ロシアの求道者文学の伝統のうえにある作品である。広津和郎など,日本の大正期の文学に与えた影響は無視しがたいが,思想は借物で,作家的力量も乏しく,やがて人々に忘れられた。1923年ポーランドに亡命,4年後にワルシャワで死去した。
執筆者:川端 香男里
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ロシアの小説家。小貴族、郡警察署長の息子として生まれる。1901年に『パーシャ・トゥマーノフ』で文壇に登場。初めはリベラルなテーマを扱っていたが1905年の革命のころから性と暴力と死を主要なテーマとするようになり、死に脅かされている人間の生の無意味さを主張した。自由恋愛の鼓吹、人間は何をしても責任は伴わぬとうそぶく極端な個人主義と享楽主義は、日本でも明治末から大正期にかけて注目を集めた。たとえば作家広津和郎(かずお)などに影響を及ぼしている。十月革命ののちポーランドに亡命。代表作は『妻』(1904)、『ランデの死』(1904)、『サーニン』(1907)、『最後の一線』(1912)など。
[小平 武]
『昇隆一訳『アルツィバーシェフ名作集』(1975・青蛾書房)』
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