改訂新版 世界大百科事典 「アングロサクソン語」の意味・わかりやすい解説
アングロ・サクソン語 (アングロサクソンご)
Anglo-Saxon
古英語Old English(略称OE)の別称。5世紀中ごろ以来ヨーロッパ大陸,ことにユトランド半島およびエルベ川下流地方から大量にイングランドに移住したゲルマン族のジュート人,アングル人,サクソン人がもたらした低地ドイツ語諸方言で,ケルト系の先住民族の言語を制圧し,イングランドの主たる言語となった。英語史で古典語と呼ぶ時期は11世紀末まで。各部族の定住した地域により,南東部のケント(ジュート),南西部の西サクソン,中部のマーシア(アングル),北部のノーサンブリア(アングル)の4方言に分かれる。たび重なるデーン人(バイキング)の侵攻,破壊により文献の多くが失われ,西サクソン語によるもののみ後世に残った。ゲルマン系のデーン人の北欧語の影響も重要だが,ノルマン・コンクエスト(1066)によるノルマン・フランス語の言語的・社会的影響は決定的である。古英語を中・近世英語と区別する特色の一つは屈折の豊かな語形であり,これが文の要素間の関係を明示するため,語順への依存度が低い。また語幹に主強勢があり,韻律上の技巧として頭韻が重用された。書写にはラテン文字,初期にはルーン文字も用いられた。重要作品に《ベーオウルフ》《アングロ・サクソン年代記》などがある。
→英語
執筆者:大束 百合子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報