日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトヒキイワシ」の意味・わかりやすい解説
イトヒキイワシ
いとひきいわし / 糸引鰯
attenuated spider fish
[学] Bathypterois atricolor
硬骨魚綱ヒメ目チョウチンハダカ科に属する海水魚。日本では福島県と三重県沖、土佐湾、沖縄舟状海盆(しゅうじょうかいぼん)(トラフ)、世界では東シナ海、台湾南部近海、インドネシア海域、ハワイ諸島、カリフォルニア沖、コロンビア沖など太平洋、インド洋、大西洋などに広く分布する。体は細長く、頭部は縦扁(じゅうへん)する。吻(ふん)は長くてとがり、頭長は吻長の2.7~3.1倍。目は著しく小さく、頭長は眼径の10~13倍。口はほとんど水平に開き、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁下をはるかに越えて、後方に伸びる。下顎の先端は上顎より前に出る。上下両顎の歯は微小で、狭い歯帯を形成する。口蓋骨(こうがいこつ)に微小な歯があるが、鋤骨(じょこつ)(頭蓋床の最前端にある骨)には歯がない。鱗(うろこ)は薄くて大きい円鱗(えんりん)。側線は鰓孔(さいこう)上端から始まり、始部でやや下降した後、ほとんどまっすぐに体の中軸を尾びれ基底(付け根の部分)部まで走る。側線鱗数は55~57枚。背びれは13~15軟条で、体のほとんど中央にある。臀(しり)びれは8~10軟条で、背びれ基底後端下方から始まる。小さい脂(あぶら)びれ(背びれの後方にある1個の肉質の小さいひれ)が臀びれの基底後端と尾びれ基底の中間付近の上方にある。胸びれの第1軟条は肥厚し、途中で二叉(にさ)して糸状に長く伸長し、尾びれ基底近くに達する。第2~第3軟条は短く、その下方に皮下に埋没する痕跡(こんせき)的な2~4本の軟条がある。さらにその下方に9~11軟条からなる普通の胸びれがある。腹びれの外側の2軟条は頭長よりも長く伸長するが、臀びれ起部を著しく越えない。尾びれの下葉はやや長い。体は背側では暗紫色で、側面では青灰色。尾びれは黒色で、そのほかのひれは暗色。最大体長は20センチメートルほどになる。同じ個体が同時に精巣と卵巣を成熟させる同時的雌雄同体魚である。水深260~5200メートルにすみ、伸長した左右の腹びれと尾びれを三脚のように海底に立てている姿が撮影されていることから、一般にサンキャクウオ(三脚魚)とよばれる。
本種の和名は、著しく伸長した胸びれに由来する。胸びれが著しく伸長することや脂びれがあることなどで、同じイトヒキイワシ属のナガヅエエソに似るが、本種は臀びれの起部が背びれ基底の後端よりも後方にあること、腹びれの後端が臀びれ起部を著しく越えないこと、尾びれの下葉基底の直前に鉤(かぎ)状の突起をもつ切れ込みがあることなどでナガヅエエソと区別できる。
[尼岡邦夫 2025年9月17日]

