日本大百科全書(ニッポニカ) 「イブン・アル・ハイサム」の意味・わかりやすい解説
イブン・アル・ハイサム
いぶんあるはいさむ
Abū Alī al-asan Ibn al-asan Ibn al-Haitham
(965ころ―1039ころ)
イスラムの中世最大の物理学者。バスラで生まれカイロで活躍し、その地で没した。主著『光学の書』Kitāb al-manāir(全7巻)を含む光学の研究で知られ、そこには、それ以前の光学に新しい研究や見解を、経験的事実に基礎を置いて導入しており、近代科学に共通する要素がみられる。
物体が見えるのは、太陽やその他の光源から出た光が物体に当たって反射し、それが目に入るという説を述べ、目の構造についても、水晶体が目の中央にあり、目の前方の球面に垂直に入ってくる光線はすべてこの水晶体に達するとした。また、目が物体を見分ける性質として、光、色、距離、形、大きさ、数など22の要素をあげている。ちなみに、水晶体、網膜、角膜などの目の部分の術語のほとんどは彼に由来する。
反射と屈折について、それを平面鏡だけでなく、球、円柱、円錐(えんすい)の形の凹面鏡や凸面鏡を使って実験し、いくつかの新事実を発見しているし、暗箱を初めて使用した。反射と屈折の理論を天文現象に応用し、「たそがれ」の時間を決めたり、地球の大気の高さ(10キロメートル)を測定している。『光学の書』は13世紀にヨーロッパに伝わり、大きな影響を及ぼし、16世紀に至るまでこの書を超える研究は出なかった。
[平田 寛]