哲学者・歴史家。ウィーン生まれ。ローマのグレゴリオ大学で哲学・神学、ザルツブルク大学で歴史学を学んだあと、1951~1956年、ニューヨークのウェスト・サイド教区のカトリック司祭として、移民たちの抱えるさまざまな問題に直面。1956~1960年、プエルト・リコのカトリック大学の副学長を務め、ラテンアメリカに派遣されるアメリカ合衆国聖職者の訓練センターを組織。1960年からは、メキシコのクエルナバカで、インターカルチュラル資料センターCenter for Intercultural Documentationを共同で設立。そこで、現代産業技術社会の諸問題を批判的に分析するさまざまなセミナーを主催する。その間、ラテンアメリカでの教会の役割や産児制限問題でバチカンと対立。1969年還俗(げんぞく)。以後、自由な立場で自己の見解を次々に発表する。学校、病院、交通手段、賃労働と性役割、電子メディアなど、現代のさまざまな領域における「進歩」にみえるものが、われわれの自立的な活動を単なる「財・サービスの消費」へと変え、世界とわれわれ自身の活動の価値を「稀少(きしょう)性」で計るように仕向けてしまうこと、また、それによって、われわれの生活を、専門家や諸サービスに対して、ますます依存的なものに変えてしまうことを彼は示す。彼の分析の根底には、教会学(典礼論)から彼が学んだ「かたち(儀礼)が内実(内面)を変化させる」という視点がある。1990年代以降は自分をとくに歴史家として規定。現代人の基本的な精神の枠組みの根源を、古代・中世までさかのぼって示す試みを続けていた。著書に『脱学校の社会』(1971)、『コンヴィヴィアリティのための道具』(1973)、『エネルギーと公正』(1974)、『脱病院化社会』(1975)、『シャドウ・ワーク』(1981)、『ジェンダー』(1982)、『生きる思想』(1991年。1978~1989年の草稿の集成。日本での出版のみ)などがある。
[桜井直文]
『東洋・小澤周三訳『脱学校の社会』(1977・東京創元社)』▽『大久保直幹訳『エネルギーと公正』(1979・晶文社)』▽『フォーラム・人類の希望編『人類の希望――イリイチ日本で語る』新版(1984・新評論)』▽『尾崎浩訳『オルターナティヴズ――制度変革の提唱』(1985・新評論)』▽『伊藤るり訳『H2Oと水――「素材」を歴史的に読む』(1986・新評論)』▽『渡辺京二・渡辺梨佐訳『コンヴィヴィアリティのための道具』(1989・日本エディタースクール出版部)』▽『滝本往人訳・解題『政治的転換』(1989・日本エディタースクール出版部)』▽『I・イリイチ、B・サンダース著、丸山真人訳『ABC――民衆の知性のアルファベット化』(1991・岩波書店)』▽『岡部佳世訳『テクストのぶどう畑で』(1995・法政大学出版局)』▽『玉野井芳郎・栗原彬訳『シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う』(1998・岩波書店)』▽『玉野井芳郎訳『ジェンダー――女と男の世界』(1998・岩波書店)』▽『金子嗣郎訳『脱病院化社会――医療の限界』(1998・晶文社)』▽『桜井直文監訳『生きる思想――反=教育/技術/生命』新版(1999・藤原書店)』▽『山本哲士著『学校・医療・交通の神話 イバン・イリイチの現代産業社会批判』(1979・新評論)』▽『山本哲士著『ディスクールの政治学 フーコー、ブルデュー、イリイチを読む』(1988・新曜社)』▽『萩原弘子著『解放への迷路 イヴァン・イリッチとはなにものか』(1988・インパクト出版会)』
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