イリイチ(読み)いりいち(その他表記)Ivan Illich

デジタル大辞泉 「イリイチ」の意味・読み・例文・類語

イリイチ(Ivan Illich)

[1926~2002]オーストリア生まれの思想家ラテンアメリカ中心活動カトリック司祭だったが、教会対立し解職される。医療学校制度を中心に、産業社会批判・文明批判・エコロジー論を展開した。著「脱学校の社会」「脱病院化社会」「シャドウワーク」「ジェンダー」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イリイチ」の意味・わかりやすい解説

イリイチ
いりいち
Ivan Illich
(1926―2002)

哲学者・歴史家。ウィーン生まれ。ローマグレゴリオ大学で哲学・神学、ザルツブルク大学で歴史学を学んだあと、1951~1956年、ニューヨークのウェスト・サイド教区のカトリック司祭として、移民たちの抱えるさまざまな問題に直面。1956~1960年、プエルト・リコのカトリック大学の副学長を務め、ラテンアメリカに派遣されるアメリカ合衆国聖職者の訓練センターを組織。1960年からは、メキシコクエルナバカで、インターカルチュラル資料センターCenter for Intercultural Documentationを共同で設立。そこで、現代産業技術社会の諸問題を批判的に分析するさまざまなセミナーを主催する。その間、ラテンアメリカでの教会の役割や産児制限問題でバチカンと対立。1969年還俗(げんぞく)。以後、自由な立場で自己の見解を次々に発表する。学校、病院、交通手段、賃労働と性役割、電子メディアなど、現代のさまざまな領域における「進歩」にみえるものが、われわれの自立的な活動を単なる「財・サービスの消費」へと変え、世界とわれわれ自身の活動の価値を「稀少(きしょう)性」で計るように仕向けてしまうこと、また、それによって、われわれの生活を、専門家や諸サービスに対して、ますます依存的なものに変えてしまうことを彼は示す。彼の分析の根底には、教会学(典礼論)から彼が学んだ「かたち(儀礼)が内実(内面)を変化させる」という視点がある。1990年代以降は自分をとくに歴史家として規定。現代人の基本的な精神の枠組みの根源を、古代・中世までさかのぼって示す試みを続けていた。著書に『脱学校の社会』(1971)、『コンヴィヴィアリティのための道具』(1973)、『エネルギーと公正』(1974)、『脱病院化社会』(1975)、『シャドウ・ワーク』(1981)、『ジェンダー』(1982)、『生きる思想』(1991年。1978~1989年の草稿の集成。日本での出版のみ)などがある。

[桜井直文]

『東洋・小澤周三訳『脱学校の社会』(1977・東京創元社)』『大久保直幹訳『エネルギーと公正』(1979・晶文社)』『フォーラム・人類の希望編『人類の希望――イリイチ日本で語る』新版(1984・新評論)』『尾崎浩訳『オルターナティヴズ――制度変革の提唱』(1985・新評論)』『伊藤るり訳『H2Oと水――「素材」を歴史的に読む』(1986・新評論)』『渡辺京二・渡辺梨佐訳『コンヴィヴィアリティのための道具』(1989・日本エディタースクール出版部)』『滝本往人訳・解題『政治的転換』(1989・日本エディタースクール出版部)』『I・イリイチ、B・サンダース著、丸山真人訳『ABC――民衆の知性のアルファベット化』(1991・岩波書店)』『岡部佳世訳『テクストのぶどう畑で』(1995・法政大学出版局)』『玉野井芳郎・栗原彬訳『シャドウ・ワーク――生活のあり方を問う』(1998・岩波書店)』『玉野井芳郎訳『ジェンダー――女と男の世界』(1998・岩波書店)』『金子嗣郎訳『脱病院化社会――医療の限界』(1998・晶文社)』『桜井直文監訳『生きる思想――反=教育/技術/生命』新版(1999・藤原書店)』『山本哲士著『学校・医療・交通の神話 イバン・イリイチの現代産業社会批判』(1979・新評論)』『山本哲士著『ディスクールの政治学 フーコー、ブルデュー、イリイチを読む』(1988・新曜社)』『萩原弘子著『解放への迷路 イヴァン・イリッチとはなにものか』(1988・インパクト出版会)』

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百科事典マイペディア 「イリイチ」の意味・わかりやすい解説

イリイチ

現代の産業社会を分析,批判する思想家。ウィーン生れ。ヨーロッパで学位を得た後,ニューヨークに渡り,プエルト・リコ人街でカトリック司祭として活動。その後,メキシコに国際文化資料センターを設立し,研究の拠点とする。第三世界の民衆の立場から,現代文明の支配構造を告発し,学校,病院,女性などをめぐる近代的制度の探求を通して,経済発展の論理による人間の自律性の弱体化を論じた。文化的性差としてのジェンダーに対して,近代社会では生物学的性別としてのセックスの優位が制度化されている点を指摘するジェンダー論は,その後の女性研究の展開に概念設定と議論を投げかけたといえる。主著《脱学校の社会》《シャドウ・ワーク》《ジェンダー》など。
→関連項目脱学校論

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イリイチ」の意味・わかりやすい解説

イリイチ

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