せい【性】
〘名〙
① うまれつき。もちまえ。天から与えられた
本質。
たち。さが。
天性。
※日本後紀‐弘仁二年(811)四月丙戌「宮内卿正三位藤原朝臣雄友薨。〈略〉雄友性温和、不レ妄二喜怒一。姿儀可レ観。音韻清朗」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初「五穀草木鳥獣魚肉、是が食となるは自然の理にして、これを食ふこと人の性(セイ)なり」 〔礼記‐楽記〕
※十問最秘抄(1383)「春の花にむかひ秋の月に吟じて、心をすまし性を幽にして、我と悟入せらるべし」 〔春秋左伝‐昭公二五年〕
※附音挿図英和字彙(1873)〈
柴田昌吉・
子安峻〉「Sex 類、性
(セイ)(共ニ男女ノ)」
(ロ) その
対立から起こる
本能の働き。また、その行為。性欲。性交。
※百学連環(1870‐71頃)〈西周〉一「彼の言語の間に悉く男女の性を分って言ふことは古く Sanscrit に始まるものなり」
⑤ (名詞の下に付いて) そのような
性質、状態、
程度であることを表わす語。
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「従姉は那(あの)通り癲癇性(セイ)の病気で死ぬし」
※古今著聞集(1254)一一「『何物ぞ』とあらくとへば、『御鞠の性なり』とこたふ」
[語誌]明治初年の「附音挿図英和字彙」には③(イ) の挙例のほかに、sexuality の訳として「性ノ区別」がみえる。しかし、明治中期を過ぎるまで性行為および性的欲求に直結する狭義の「性」はみえない。森鴎外の「ヰタ・セクスアリス」(一九〇九)に「Sexual は性的である。性欲的ではない。併し性といふ字があまり多義だから」とあり、明治後期になって単独で狭義の「性」が登場する。
しょう シャウ【性】
〘名〙
① 生まれつきの性質。本性。
※法華義疏(7C前)一「蓮華者、外国云二分陀利一、此物為レ性花実倶成、此経因果双明、義同二彼花一、故以為レ譬也」
※徒然草(1331頃)一〇七「女の性(しゃう)は皆ひがめり」
② 表面を覆われてわからなくなっているが、本来の性質や考え。もともとのもの。また、正体。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)四「この硯ぶたもこんなにうまそふに見へても、性(シャウ)は馬のくそや犬のくそだろふ」
③ 物の性質。もちまえ。また、ありのままの性状。
※古文真宝笑雲抄(1525)二「米が一段白くしゃうもよしと云心」
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)八「むくろじは三年みがひてもしろくはならねへ。性(シャウ)のものを性で、おめにかけるがいい」
④ 習性。ならい。
※浄瑠璃・鎌田兵衛名所盃(1711頃)下「親兄はさし合見たらばちゃっと気をとをし、はづそふはづそふと思ふたがしゃうに成」
⑤ たましい。こんじょう。精神。性根。
※曾我物語(南北朝頃)一〇「馬もしゃうある者なれば、人々のわかれをや惜しみけん」
⑥ 物の中核になるもの。根本になるもの。
※玉塵抄(1563)二三「上柱国と云官あり。国のはしらになる性(シャウ)になるきようある者をなすぞ」
⑦ 仏語。本来そなえている性質としての本性・自性など、外からの影響によって変わらない本質。
※法華義疏(7C前)二「発大悪声叫呼求食者、譬下以二我見一為上レ性也」
※真如観(鎌倉初)「諸法は、ただ性(シャウ)のみあり、相は無しと云ふ」
なり‐くせ【性】
〘名〙 性質。
※日葡辞書(1603‐04)「ヒトノ naricuxe(ナリクセ)」
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デジタル大辞泉
「性」の意味・読み・例文・類語
せい【性】
[名]
1 人が本来そなえている性質。うまれつき。たち。「人の性は善である」
2 同種の生物の、生殖に関して分化した特徴。雄性と雌性。雄と雌、男と女の区別。また、その区別があることによって引き起こされる本能の働き。セックス。「性に目覚める」
3 《gender》インド‐ヨーロッパ語・セム語などにみられる、名詞・代名詞・形容詞・冠詞などの語形変化によって表される文法範疇の一。男性・女性・中性などの区別がある。日本語には、文法範疇としての性の区別はない。英語でも代名詞にみられるだけで、それ以外の品詞では消滅している。
[接尾]名詞の下に付いて、物事の性質・傾向を表す。「安全性」「アルカリ性」「向日性」「人間性」
[類語]性別・セックス・ジェンダー・性的・男女・両性・雌雄・同性・異性
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性
せい
sex
同一種の生物を,生殖の場面で相互に補完し合う2グループ (雄と雌) に分ける特徴の総体。性,生殖は,すべて密接に生命体の構造に織込まれており,いずれも種族の繁殖と存続に関与する。繁殖と長期的な存続のためには性的な再生産が不可欠な生物がほとんどであるが,必ずしも生殖が性的である必要はない。微生物から人間まで,あらゆる生命について個体の寿命には限りがあるため,どの個体群にとっても最大の関心事は子孫をつくることである。これが生命再生産の純粋で単純な形である。
下等動物や植物のなかには,卵や精子とは無縁の再生産を行うものもある。シダ類の場合,何百万もの微細で非性的な胞子が放出され,適切な環境に落ちれば新しいシダが生じる。さらに進化した植物でも,非性的な手段によって再生産を行うものが少くない。球根は脇から新しい球根を発芽させる。クラゲやイソギンチャク,ウミヘビなどのような下等動物のなかには,ある季節になると身体の一部が分離し,その各片から新たに,しかし前とそっくりの個体の群れができる。微小なレベルでは,単細胞生物は成長と分裂を繰返すことで,ほぼ同一の無数の子孫からなる群れをみごとに生み出す。こうした再生産のいずれも,生命の基本的な特性である細胞の成長と分裂の能力のたまものである。
ただし,ほとんどの動物の場合,とりわけ高等動物の場合には,非性的な再生産手段は構造的な複雑さや個体の活動と両立しないようである。非性的な再生産を活用して,一定の条件下では膨大な個体数を生み出せる種もあるが,環境に適応するための変異を得るという意味では,その価値には限界がある。いわゆる「植物的な」再生産の様式を取るものは,動物であろうと植物であろうと遺伝的に親と同一の個体を生じる。望ましくない環境の変動に見舞われたときにはどれも等しく影響を受け,全滅するおそれがある。そのため,非性的な再生産が貴重で繁殖に欠かせない手段になっている事例があろうとも,性的な再生産の必要性が消えはしない。
性的な再生産は,個体群内における世代交替の必要性を満たすだけではなく,変動する環境下で生延びるためにより適した種を生み出す。つまり,種族や種を永遠に存続させることを二重に保証する。この非性的と性的という2種類の再生産の最大の違いは,非性的な再生産によって生じた個体には根本的にそっくりな片親しかいないのに対し,性的な再生産によって生れた個体には両親がいるため,一方の親に生写しの複製にはなりえないという点である。つまり性的な再生産は,繁殖の機能を満たすのに加えて,変異ももたらす。どちらのタイプの再生産も,適切な条件さえ与えられれば1つの細胞から1個体へと成長していけるという可能性を実現するものである。すなわち性は,そうした基本的な機能と結びつきながら,種が新しい環境に適合していくための能力をになっている。
性
せい
gender
言語学用語。性別に関連する概念が,体系的な語形替変として,また,形容詞と名詞など統辞論的に統合される単語相互間の一致として,あるいは,性別をそなえた代名詞による置換として実現しているとき,その文法範疇を性という。自然の性とは必ずしも対応するとはかぎらない。印欧祖語には,男性,女性,中性があり,現在もドイツ語やロシア語はこの三分法を有するが,ロマンス語派の諸言語では男性と女性,デンマーク語では中性と通性の二分法に変化している。バンツー諸語の名詞の類別化や,アメリカインディアン諸語の多くにみられる生物・無生物の対立も広義の性に含めることがある。日本語には文法範疇としての性は認められない。
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せい【性 sex】
〈性〉ということばにはさまざまな意味がある。まず〈性〉は生物の多くの種にみられる二つの表現形態の区別で,ヒトであれば男性―女性,動植物であれば雄性(雄)―雌性(雌)の区別を意味する。次に,この二つの性が存在するところから生じる行動,現象も一般に〈性〉といわれる。 ヒトの場合,性は遺伝子によって決定され,発生の過程で内性器,外性器の性分化が起こる。これを一次性徴という。次いで思春期にいたると,男子では筋骨の発達やひげが生えるというぐあいに,一見して〈男らしい〉〈女らしい〉体つきとなる。
せい【性 gender】
言語学の用語。名詞にみられる文法的カテゴリーの一つで,これにより当該言語のすべての名詞はいくつかの類に分けられる。自然性sexと明確に区別するために文法性とも呼ばれる。 たとえばインド・ヨーロッパ語族では,男性―女性の2性に区別されるタイプ(フランス語,イタリア語,スペイン語など)と,男性―女性―中性の三つを区別するタイプ(ギリシア語,ラテン語,ドイツ語,ロシア語など)が広くみられ,セム語族には前者のタイプのみが存在する。
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性
樹の個体差を表す言葉。「性が良い」「葉性(はしょう)」「皮性(かわしょう)」などと使われる。またその特徴が固定化したものに対して、品種名のように用いられることもある。例:もみじ荒皮性、蝦夷松八ッ房性など(荒皮性…短期間で肌が荒れてくるもの、八ッ房性…芽や葉の矮小化したもの、盆栽に適している)。
出典 (株)近代出版盆栽用語集について 情報
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典内の性の言及
【ドラビダ語族】より
…名詞の数では,単数と複数の区別がある。性に関しては,普通,男性とそれ以外とを区別するか,または通性と中性とを区別するが,南部ドラビダ語の単数では,男性・女性・中性の三つを区別する。動詞の人称語尾は,代名詞的要素の発達したものと考えられ,したがって三人称では,名詞の変化と同様に性と数が区別される。…
【品詞】より
…名詞とか動詞とかと呼ばれているものがそれである。
【品詞の本質】
単語というものは,その圧倒的多数が現実世界に存在する何か(事物,運動・動作,性質,関係等)を表している。したがって,すべての単語はその表しているものの性格に規定されて,他の単語とはどこかしら異なる機能を有している。…
【ジェンダー】より
…生物学的性別や性差を意味するセックスsexに対して,社会的文化的に作られた性別や性差を意味する言葉。〈男らしさ〉〈女らしさ〉など,社会通念において一般的な固定的な性別観・性差観を意味することもある。…
【雄】より
…植物や下等動物では,比較的小さくて活発に運動する小配偶子を相手個体(雌)へ移すほうの個体を雄という。しかし,遺伝的に雄であっても,下等生物では,環境条件や発生途中で性が転換するものがあり,またアオミドロや魚のベラやハナダイのように個体の性が相対的にきまるものもいるため,生物学的には雄に共通な性質(雄形質という)をより多くもった個体を雄という。雄形質とは,精子をつくる精巣(一次性徴),輸精管や貯精囊など生殖腺付属器官(二次性徴),そして雌とはちがう雄に特有の外形(三次性徴)をいう。…
※「性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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