加熱などの簡単な調理で飲食でき,貯蔵性の高い食品。調理素材としての野菜や魚の水煮缶詰のように,それだけでは料理にならないものはコンビニエンスフードと称している。しかし,インスタント食品を含めて広義のコンビニエンスフードと呼ぶこともある。日本では古来糒(ほしい)や焼米(やきごめ)のような加工食品が見られ,明治以降には即席カレー,葛(くず)湯,懐中汁粉,ゼリーの素(もと)などが売り出されていた。しかし,インスタント食品が一般化したのは,昭和30年代になってインスタントコーヒーやラーメンが人気を得てからで,インスタントという言葉自体が大流行するようになった。以下,インスタント食品のおもなものをあげる。(1)デンプンをアルファ化したもの 油であげるか,80℃以上の蒸気でデンプンをアルファ化し,乾燥した食品で,湯で復元する。インスタントラーメン,即席ご飯など。(2)液状食品を粉末化したもの インスタントティー,インスタントコーヒー,インスタントミルクなど。(3)調理済冷凍食品 工場で加工,調理し,冷凍したもので,最終の加熱のみを省いた半調理品。コロッケなどは家庭で油であげて賞味する。(4)凍結乾燥食品 野菜などを凍結乾燥した食品で,水または湯で復元して賞味する。長期間の保存に耐える。(5)中間水分食品 糖などを添加し,水分含量がわりに高いにもかかわらず,腐敗しにくくした食品で,いわゆる宇宙食がこれにあたる。この中では調理済食品が大半を占める。さらに省力化を進めた商品として,容器も使い捨てにするカップラーメンや,調理済冷凍食品を組み合わせたTVディナーがある。日本でインスタント食品が発展した背景には,食品加工技術の発達や食生活の多様化,電化製品の普及,就業婦人の増加などによる社会的要求があったと考えられる。
→レトルト食品
コーヒーをいれる手間を省く方法は古くから考案されていたが,湯で溶ける粉末のコーヒーを1901年にアメリカで加藤という日本人が発明,09年にはワシントンというアメリカ人の発明になるものが売り出された。その後,軍隊用の食品として重宝がられ,第2次大戦後一般家庭向けのヒット商品となった。これが日本にも波及し,60年国産化,翌61年貿易自由化でアメリカ産が輸入され定着した。その後の製法改良などもあり,現在は年間4.1万t(1996)が消費されている。これは205億杯分にあたる。
1958年に〈チキンラーメン〉の名で売り出された商品が爆発的人気を呼び,多品種が続出し,インスタント時代の原動力となった。もともとアメリカの余剰小麦粉を原料として作られ,安価で手軽な点と,折からのスーパーマーケットに適した商品であったことから急成長をとげ,年間53億食(1996)が生産されるまでになった。アメリカや東南アジアでもファーストフードとして愛好され,日本国内と同程度の量が生産・消費されていると思われる。この商品は広告合戦によって伸びた面もあり,ピーク時の1975年には1日合計1時間(関東・関西計)以上のテレビCMが流されていた。
執筆者:田島 真+北村 賀世子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
簡単にしかも短時間で、あまり手間をかけないで調理できる保存性食品の総称。短時間煮る、湯を加える、水や牛乳を加えて冷やすといった単純な操作で、料理となるものである。かまぼこ、ハム、ソーセージなど生(なま)のまま食べられるものは、調理を必要としないので、インスタント食品の範囲からはいちおう外されている。
[河野友美]
日本古来のものでは、麦こがし、即席汁粉などがある。麦こがしは、おそらく古代からあったとみられるし、即席汁粉は江戸時代にできた。糒(ほしいい)も一種のインスタント食品である。現在多く利用されているものは、アメリカで発達したものが多いが、即席麺(めん)のように、日本で生まれたものもある。インスタント食品という呼び名が使われ始めたのは、1957年(昭和32)ごろからである。
[河野友美]
形態からは、粉末食品、乾燥食品、濃縮食品、冷凍食品、缶詰、レトルト食品がある。種類としては、米飯類、スープ、ソース類、麺類、だし類、みそ汁、吸い物、嗜好(しこう)飲料、デザート類、クリーム類、ケーキ類といったものがある。
米飯類としては、白飯、赤飯、五目飯(めし)、バターライスなどがあり、形態では、缶詰、レトルト、α米(アルファまい)がある。α米は、炊飯ののち脱水したもので、湯を加えるか、簡単に煮るだけで飯になる。麺類では、即席ラーメンが代表的なもので、そのほか、うどん、そば、スパゲッティがあり、製麺後、熱で処理し、揚げるか、熱風乾燥する。スープを吸収させたものと、別添形とがある。そのほか、袋詰めのゆで麺形態のものもある。スープは、粉末、濃縮液体、キューブ型、そのままの形があり、袋入り、紙箱入り、缶詰、固形物包装がある。ソース類では、カレールウ、ミートソース、ホワイトソース、ドミグラスソース、トマトソースなどがあり、粉末、液状、濃縮ペースト状があり、袋入り、レトルト、瓶詰、缶詰といった形態がある。だし類では、カツオ、昆布、煮干しなどや、麺用の汁などがあり、おもに濃縮、粉末類が多い。デザート類は、ゼラチン系や海草抽出物を主体とするゼリー類、インスタントプディング、ババロアなど、ケーキ類では、主として粉末で、ケーキミックス、ホットケーキミックス、パンケーキミックスなどがある。嗜好飲料では、多くが粉末で、コーヒー、紅茶、ココア、清涼飲料、シェークなど、クリーム類では、粉末クリーム、ホイップクリームなどがある。このほか、茶碗(ちゃわん)蒸し、グラタン、フライのような冷凍品、凍結乾燥によるすき焼き、シチュー、おでんなど各種の料理類がある。
[河野友美]
殺菌のための高温加熱によるビタミン類の損失、保存期間が長くなるための、含有脂肪類の酸化、成分変化などは避けられない。また、材料などの制約から、栄養成分の偏りなどもみられる。したがって、インスタント食品に偏った食生活をすると、ビタミン、タンパク質の不足などの問題がおこりやすいから注意を要する。しかし一方では、手作りでは得がたい風味をもつものもあり、また、簡便性から考えて、上手に利用すれば、食生活の幅を広げるのにも役だつ。とくに、嗜好品やデザート、ケーキなどでは、楽しさをプラスする点が大きい。
[河野友美]
『森枝卓士著『世界のインスタント食品』(徳間文庫)』
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