翻訳|Indus
インド亜大陸北西部の大河。チベット高原南西部のカイラス山脈に発し,北西流してカシミール地方を横断したのち,大ヒマラヤ山脈北西端で南西へと転じ,先行性の深い横谷をなしてからパキスタンの北西辺境地方に流下する。さらにパンジャーブ地方にはいり,同地方の語源にあたる五つの川(西よりジェラム,チェナーブ,ラビ,サトレジ,ビアス)を合わせたパンジナードPanjnād川を加える。同川を合流させてのちは,シンド(サンスクリットでインダスにあたるシンドゥに由来)地方のタール砂漠西辺を流れるため,流入する涵養河川もなくカラチ南東方でアラビア海にはいる。全長約2900km,流域面積約96万km2。流域はほぼ全域にわたって乾燥地帯に属するが,ヒマラヤ,カラコルム両山系の降雪,氷河を主要水源としているため,年間を通じて流量がある。年間流量は約2.1億m3であるが,季節差が大きく,7~8月の豊水期にはパンジャーブ地方に洪水を頻発させる。
流域は英領時代から世界有数の灌漑発達地帯で,パンジャーブ地方の灌漑が前記の5支流を主要水源としているのに対して,シンド地方の灌漑はインダス川本流に依存している。インド・パキスタン分離独立以後,1960年の両国間協定により,インダス川本流と前記支流のうちのジェラム,チェナーブの計3河川の水は,パキスタンに属することになった。インダス川本流では,上流からカラバーグ,グッドゥ,サッカル,グーラム・モハメッドなどに灌漑用堰堤が建設されている。なかでもサッカル(旧名ロイド)堰堤は,1932年に完成した全長1.6km,66の水門をもつ可動堰堤で,そこから左岸に3本,右岸に4本の用水路が派出する。その灌漑面積は計約200万haに達し,夏作の稲,冬作の小麦に給水する。インダス文明の代表的遺跡モヘンジョ・ダロは,同堰堤右岸の用水路灌漑地帯にある。グーラム・モハメッド堰堤も下流デルタの約112万haを灌漑する。インダス川の水運利用は振るわず,年間を通じては河口から約200kmのハイダラーバードまでの小型船の航行にとどまっている。
執筆者:応地 利明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
チベットに発し,カシュミール,パンジャーブ,シンドを流れ,アラビア海に注ぐ大河。その中・下流域は乾燥地帯で,インドで最初の都市文明が形成された。アーリヤ人がインドに入って最初に定住したのはパンジャーブであったが,前10世紀頃から歴史の主要舞台はガンジス川流域に移った。13世紀以後はムスリム政権の重要な地方となり,住民もイスラームに改宗していき,1947年以後はパキスタンに属することになった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…【米田 賢次郎】
【南アジア】
南アジアは典型的なモンスーン気候に属し,6~7月の南西モンスーンの到来とともに雨季にはいり,河川も増水していく。古代インダス文明も雨季のインダス川の増水と氾濫を利用した溢流灌漑に農業的基礎をおいていた。秋口になって洪水がひくとともにコムギを播種した点は,エジプトやメソポタミアの古代文明の場合と類似する。…
※「インダス川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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