改訂新版 世界大百科事典 「ウミタナゴ」の意味・わかりやすい解説
ウミタナゴ
Ditrema temmincki
スズキ目ウミタナゴ科の海産魚。淡水のタナゴと体型が似ているのでこの名があるが類縁関係はまったくない。胎生魚として有名で,5~6月ごろ5~6cmの稚魚を産出する。全長25cmに達する。体色がさまざまで,マタナゴ,アカタナゴ,アオタナゴなどと呼ばれ,別種あるいは同種とされ,分類が混乱していたが,現在ではウミタナゴとアオタナゴD.viridisとの2種に整理された。標本では区別がむずかしいが,ウミタナゴは地色が銅褐色,胸びれが薄いオレンジ色,吻(ふん)部にふつうは2本の黒い縞があるのに,アオタナゴは地色が暗オリーブ色,胸びれは薄いオレンジ色で付け根の上縁に黒点があり,吻に黒い縞などない。ウミタナゴが数少なく(30尾以下,平均13尾)大きい稚魚(52.0~59.5mm,平均57.4mm)を産むが,アオタナゴは数多く(15~64尾,平均30尾)小さい稚魚(47.0~52.0mm,平均49.6mm)を産む。どちらも北海道南部から九州まで各地の沿岸に見られるが,ウミタナゴが外海に面した磯を好むのに,アオタナゴは内湾の藻場に多い。漁獲量が多い魚ではないが,塩焼き,煮つけなどにされる。腹に子をもっている晩春が美味とされる。
ウミタナゴ科Embiotocidaeには,ほかにやや深い岩礁にすむオキタナゴNeoditrema ransonnetiがある。ウミタナゴより体高が低い。千葉県以南に分布。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報