日本大百科全書(ニッポニカ) 「エクイティファイナンス」の意味・わかりやすい解説
エクイティファイナンス
えくいてぃふぁいなんす
equity finance
企業金融のうち、自己資本(エクイティequity)による資金調達形態の総称。厳密には、投資家からの払込みと企業からの新株発行を伴う直接的な増資を意味するが、広義には迂回(うかい)的増資とよばれる新株予約権付社債の発行を含む。新株予約権付社債は、2002年(平成14)4月の商法改正により、従来の転換社債(convertible bond=CB)や新株引受権付社債(warrant bond, bond with warrant=WB)が統合されたもので、社債発行会社の株式をあらかじめ定められた価格で購入もしくは社債と交換する権利が付与された社債のことである。現在は会社法(292条)で規定されている。
エクイティファイナンスは、企業財務面では自己資本の増強につながるが、その実施規模によっては、ときとして株式流通市場における需給関係に影響を及ぼす。1980年代中葉のいわゆるバブル経済形成期には、プラザ合意(1985年9月)以後の株価急騰と軌を一つにしてエクイティファイナンスの拡大が認められた。1982年(昭和57)から1985年までの4年間、国内外でのCB・WBを含むエクイティファイナンス実施額は13兆8114億円であったものが、1986年から1989年(平成1)に至る4年間では、62兆4333億円と4.5倍の水準に達している。これらのうち、直接的な増資を除いた内外発行額(CB+WB)は47兆円に及ぶが、その後の株価暴落に伴い、かなりの部分が未行使残となり、リファイナンス問題(社債の償還、借換えに伴う問題)として発行企業の財務状況に影を落とした。こうした供給圧力の存在は株式市場の機能にも影響を及ぼした。株式発行市場では、公募増資の一時停止やCB・WB発行の激減と並行して、1992年ごろから企業の資金調達ルートは普通社債(straight bond=SB)へと軸足を移す傾向がみられた。一方、株式流通市場においては、株価の上値(うわね)を抑える形で作用した。
バブル経済期のエクイティファイナンスの発行増加は、資金調達の表面上のコストの低さからもたらされた側面がある。しかし、エクイティファイナンスの真の資金コストはその時点における企業の事業利益率であることから、証券の発行・流通市場の機能を健全に発揮させるためにも、事業利益率を低下させない投資機会を有する場合のみに、それに必要な資金調達だけを行うような企業の対応が求められる。
[高橋 元]