フランス料理の食用カタツムリとして有名なマイマイ科の陸産巻貝。escargotはフランス語でカタツムリの意で,この貝を指すにはescargot des vignes(ブドウ園のカタツムリ)が正しい。英名ではapple snail(リンゴマイマイ)ともいう。殻は高さ4cm,太さ4cmの球卵形。赤褐色の地に淡色帯が1~4本ある。中部ヨーロッパに広く分布し,ブドウの廃園に集めて飼育したのでこの名がある。冬眠に入る前のものが味がよいとされ,ブルゴーニュやシャンパーニュのものが最上とされる。ギリシア時代の女神官が食べていたが,ローマ時代になって,コンキリウムという壺の中で飼って賞味された。18世紀末にはパリでも食べられるようになり,現在ではフランスのほかスペインなどでも盛んに食用にされる。
この種のほか,プチグリH.aspersa(フランス名petit-gris)も同様に食用にされるが,やや小型で3cmくらいでまるみがある。中・西ヨーロッパにふつうに見られ,南アフリカ,オーストラリア,アメリカにも移入されている。
執筆者:波部 忠重
日本にはカタツムリを食べる風習がなく,わずかに子どもの癇(かん)などの薬にしたと伝えられるくらいである。これに対して,北アフリカでは中石器時代から食用とされていたことが,カプサ文化などに属するエスカルゴティエールescargotière(カタツムリの殻の貝塚)の存在によって知られている。ヨーロッパでもローマ時代には食用とされており,ローマ人によってヨーロッパ各地に食用カタツムリが伝えられ,なかでもフランスにエスカルゴ料理が発達して17~18世紀に定着した。20世紀になると,エスカルゴはフォアグラとともにフランス料理の代名詞的存在となり,欧米諸国で賞味されるようになった。明治・大正時代の日本の西洋料理書にもエスカルゴ料理が見えるが,いいかげんなものが多い。一例をあげると,《仏蘭西料理解説》(1920。鈴木敏雄)には,〈エスカルゴを芳香草入りの白ワインで煮こみ,酢味のおろし大根を添える〉とある。これではまるで和食の酢の物で,戦前の日本にはエスカルゴ料理の知識がほとんどなかったことがわかる。フランスのエスカルゴ料理は多種多様だが,とくにエスカルゴの本場の名を冠する〈ブルゴーニュ風(エスカルゴ・ア・ラ・ブルギニョンヌ)〉がもっとも有名であり美味である。その調理法は,エスカルゴの身を殻からはずしてわたをとり,白ワイン入りのスープ・ストックでボイルして冷やしておく。バターにエシャロット,ガーリック,パセリ,塩・コショウを加えてソースを作り,このバターソースを殻の底に詰め,その上に身を入れて,さらに同じソースで殻を満たしてふたをする。これをエスカルゴティエールという専用の焼皿に並べてオーブンで焼く。ソースの煮たったところで,殻を専用のはさみでつまみフォークで身を引き出して食べる。日本にこの料理が見られるようになったのは昭和30年以降のことである。フランスに旅行した人々が味を知って喧伝したために,殻を別添えにしたエスカルゴの缶詰が輸入されるようになり,日本のホテル,レストランのメニューにエスカルゴ料理が登場するようになった。最近はエスカルゴの殻に身とバターソースを詰めて焼くばかりにした調理済みの冷凍物も出回り始めている。
執筆者:村岡 實
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
軟体動物門腹足綱マイマイ科のカタツムリ。食用種である。フランス語でエスカルゴは元来カタツムリまたは螺旋(らせん)を意味する。英語ではapple snailあるいはRoman snailといわれ、また、学名のラテン語種小名pomatiaはリンゴの意味ではなく、ギリシア語の「壺(つぼ)の蓋(ふた)」に由来するといわれる。中部ヨーロッパに普通にみられるカタツムリで、海抜1600メートルまで分布し、イギリスにも移入されている。なかでもフランスのブルゴーニュ地方に産するものが最良とされ、また、ブドウの葉で育ったものがもっとも味がよいとされて、とくにEscargot des vignes(ブドウのエスカルゴ)とよばれる。殻は球形で厚く、茶褐色でむらのある地肌に1~4本の白色帯が走る。成長線も強く、臍孔(へそあな)はふさがり、殻口外唇はやや肥厚している。殻高、殻径とも40ミリメートル内外である。食用カタツムリとして「エスカルゴ」と総称されるものは10種以上あり、フランスでは養殖されている。前種の次に重要なのはプチグリH. aspersaである。殻高、殻径とも30ミリメートルぐらいで、黄褐色の地に紫褐色の帯が4条走っていて、殻全面に縮緬(ちりめん)状のしわがある。この種はヨーロッパばかりでなく、アフリカ南部、アメリカ、オーストラリアまで移入されて繁殖し、common garden snailとよばれている。
[奥谷喬司]
食用には、多くは飼育されたものが利用される。カタツムリ食用の歴史は、ヨーロッパでは古く、紀元前50年、すでに食用の目的でカタツムリが飼育されていたという。中世のカトリックでは、断食期間中でも、カタツムリの食用が許されていたため、僧院でもかなり広くカタツムリが飼育されていた。フランスで、カタツムリ専門の料理店ができたのは18世紀末ごろである。重要な料理材料の一つとされ、現在でもフランス料理においては、高い位置を占めている。
カタツムリを用いた料理でもっとも有名なのは、エスカルゴブルゴーニュ風(エスカルゴ・ア・ラ・ブルギニョンヌ)である。なまのものをゆでて、殻から出し、きれいに洗う。これをさらに白ワインやブイヨンで煮る。カタツムリの殻に、パセリやニンニク、エシャロットのみじん切りをあわせたバターとともに詰め、オーブンで焼き、熱いうちに供する。また、シチューや炒(いた)め物にもする。日本へは、主として殻を別添した水煮缶詰が輸入されている。なお、食用にするカタツムリは、普通キャベツやレタス、ブドウの葉などを餌料(じりょう)にして飼育する。
[河野友美・大滝 緑]
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