フランス料理(読み)ふらんすりょうり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フランス料理」の意味・わかりやすい解説

フランス料理
ふらんすりょうり

本来はフランス国内において、フランスの産物を使い、フランス人によってつくられた料理であるが、現在はそのような限定はなく、世界各国でつくられているフランス風料理も含む。フランス料理は、西洋料理のなかでもっとも優れた料理で、西洋料理すなわちフランス料理といっても通用する。英米人は生きるために食い、フランス人は食うために生きているといわれるくらいである。フランス料理は、手のこんだ料理でもくどくなく、風味、色彩、形その他の点からも総合芸術といえよう。どんな簡単な家庭料理でも、あか抜けがしている。フランス以外の各国の有名料理も、フランス料理の献立に組み入れられている。フランス人の特長は材料をむだにしないことであり、フランス料理もけっしてぜいたくなものとは限らない。経済性ということを絶対に忘れていないからである。朝食はパンとコーヒーだけで、いとも簡単であるが、このパンとコーヒーにはその味を実に上手に生かした巧みさがしのばれる。昼食は前菜、肉、サラダ、果実、チーズ、コーヒーぐらい、晩はスープ、肉、野菜、サラダ、果実、チーズ、コーヒー程度が普通の家庭の食事である。昼と夜の違いは次のようである。昼の前菜に対して夜はスープ、昼食の肉は簡単に焼いたり炒(いた)めたりしたものであるが、夜は肉でスープをとり、そのボイルした肉をいろいろと手を加えて調理するなどがその一例である。

[小林文子]

歴史

紀元前400年ごろ現在のフランスの地(ガリア)はケルト人が支配し、彼らはガリア人とよばれた。ガリア人は大食・大酒家で知られたが、その食事・料理は素朴なものであった。前1世紀にはこの地はローマ帝国の一部となり、料理もローマの影響を大きく受けることになる。4世紀以後の民族大移動でこの地にはゲルマン人が侵入、その一派であるフランク人の王国が生まれた。ガリア・ローマの文化とゲルマンの文化とは長い間共存し、料理も少しずつ進歩していった。十字軍遠征によってもたらされた各地の産物や香辛料も、料理を豊かなものにしたといえよう。

 16世紀初頭、フランスに浸透してきたイタリア・ルネサンスは料理の面でも大きな影響を与えた。ことに、1533年イタリアの名家メディチ家のカトリーヌがオルレアン公アンリ(後のアンリ2世)に嫁いできたとき、随行してきた多くの料理人や給仕人によって豪華な料理や食事作法がもたらされた。フォークスプーンもこのころ伝えられたもので、それまでは宮廷でも指で食べていたのである。

 17世紀、太陽王ルイ14世は、ベルサイユに広大な宮殿をつくり、貴族や富豪を招待して宴を開いたので宮廷料理はますます発達した。当時の食器などはいまも宮殿に展示されており、その豪華さがしのばれる。王は健啖(けんたん)家で料理にも造詣(ぞうけい)が深かったが、相変わらず指で食事をしていた。続く摂政(せっしょう)時代、ルイ15世親政の時代にも王侯貴族の館で美食の傾向は発展した。パリにレストランが出現したのもこのころであった。

 1789年のフランス革命後は、王侯貴族に仕えていた料理人は職を失った。彼らはそれぞれレストランを開いたり、またそこに雇われたりしたので、フランス料理は一般庶民のものとなっていった。革命前後を生きた食通ブリア・サバランの『味覚の生理学』(1825。邦訳『美味礼讃(らいさん)』)は、フランス料理を芸術とし、食味の精神を説いた名著として知られる。

 19世紀になり、近代フランス料理の祖といわれるアントナン・カレーム、その弟子ユルバン・デュボワが出てフランス料理を一段と飛躍させた。彼らは優れた料理人であるとともに理論家でもあり、それぞれ『パリの料理人』『古典料理』といった著作を残した。また、デュボワは、それまで多くの料理を同時に食卓に並べていた方法を改め、料理を1品ずつ運ばせて味を損ねないようにするロシア式サービス法を取り入れた。19世紀後半には、プロスペル・モンタニエ、オーギュスト・エスコフィエ、フィアレス・ジルベールらの優れた料理人が出て料理の簡素化と改良を進め、フランス料理を完成させた。

 今日では、生活や嗜好(しこう)の変化、また脂肪のとりすぎなどへの反省から、新鮮な材料にあまり手を加えず、濃厚なソースを控えたりする、健康的で簡素なヌーベル・キュイジーヌ(新しい料理)の傾向が一般化しつつある。

 フランス人が磨き上げたこの優れた料理は諸外国にも紹介され、中国料理とともに世界中の人が賞味するところとなっている。日本でも明治初年に西洋料理店が開かれて以来、大正、昭和とさらに発展して、今日のような不動の地位を占めることとなった。

[小林文子]

食生活

フランスは大西洋と地中海に面し、温和な気候風土に恵まれており、農産物、畜産物、そして水産物など豊富である。これらの諸条件が料理によい素材を提供している。食生活は、よい素材すなわちその土地の産物と、古代ローマ文化を基盤に才能豊かな料理研究家たちのたゆまぬ研鑽(けんさん)によって発達してきた。フランスの食生活にはワイン、香辛料、ソース、チーズなどが重要な役割を果たしている。フランス第一の特産物であるワインは、料理と切っても切り離せない関係にある。またワインは飲む目的だけでなく、料理の味をよくするためのだいじな素材である。香辛料は原形の葉や実をグラインダーでひき、調理の際はひきたてを用いる。パセリの茎、こしょう、ローリエ、セロリ、ナツメグ、サフランなどは代表的なものであり、2~3種類をあわせて用いることにより、料理に微妙なふくよかな味をつくることができる。またフランス料理では、ソースがその料理の味を決定する重要な役割を果たしている。ソースにはなによりも細心の注意を払うといっても過言ではない。フランス人は牛乳は朝食のコーヒーに入れるぐらいで、多くの牛乳はチーズにつくりかえられる。したがって、食生活でのチーズの役割は大きく、いろいろな種類のチーズが食事の後段に供され、もっともだいじな食品の一つになっている。フランス料理は家庭料理としても発達してきており、伝統的なよい料理を守って、親から子へと受け継がれている。

[小林文子]

献立

献立とは料理の順序であり、献立を記したものを献立表という。現在の献立のモデルを示したのは前述のデュボワで、のちにエスコフィエが献立の書1巻を書いて献立のつくり方が決まったという。献立には、朝食、昼食、夕食、お茶の会、カクテルパーティーなど、それぞれの目的に適したものがある。もっとも正式の献立は正餐(せいさん)dînerで、宴席などに利用されている。食事の進行に伴って各種の酒が出されるが、食欲増進用に食前に飲む酒をアペリチフapéritifという。

 料理の供される順序を普通、コースという。正餐のコースを次に示す。料理とともに供されるワインについては後出〔ワイン〕参照。

(1)オードブルhors-d'œuvre オードブルには生(なま)ガキ、キャビアなどの珍味や薫製品、酢漬け、油漬けなどにした魚類・肉類・野菜類やサラダなどがある。これら冷前菜は主として昼食に使い、多くの場合、数種盛り合わせて供する。オードブルは冷前菜が主であるが、ほかに温前菜を用いることもある。

(2)スープsoupe 正餐にはかならず澄んだスープ(コンソメconsommé)を出す。

(3)魚料理poissons 淡泊で消化のよい魚貝類の料理が出る。

(4)肉料理entrée 魚料理に続いて献立の中心となる料理で、濃厚な味のアントレ(肉料理)が出る。

(5)蒸し焼き料理rôti 鳥獣肉を大きな塊のままオーブンで焼いた料理で、ローティという。

 肉料理とローティの間には、ソルベsorbet(洋酒入り氷菓子、英語ではシャーベット)が出される。サラダは肉料理といっしょに供されるが、野菜料理は色調はもちろん、味の調和、栄養のバランスなどでたいせつな脇役(わきやく)である。サラダにはフレンチソース、すなわち酢油ソースが添えられる。

(6)アントルメentremets スフレ、プディングなどの温かいものと、アイスクリームババロア、ゼリーなどの冷たいものがある。

(7)チーズfromage 普通は3、4種のチーズを取り合わせて供することが多い。フランス人はこのチーズを、献立のなかで非常にたいせつにしている。

(8)果物fruit 季節のフルーツを盛り合わせて出し、客は好みのものを選ぶことができる。

(9)コーヒーcafé 献立の最後を締めくくるコーヒーは、普通のコーヒーカップの2分の1の小型(デミタスカップ)を使い、コーヒーの濃度は普通の2倍の濃さにして供される。このコーヒーは別室で供されることもある。

 献立は、簡単なものから高度なものまで千差万別であるが、だいじなことは料理の組合せと、勧め方の順序である。一般のフランス家庭の献立は簡単で、朝食はパン(クロワッサンブリオッシュバゲットなど)と、牛乳をたくさん入れたカフェ・オ・レですます。昼食はオードブルと肉料理1品、チーズか菓子ぐらいである。夕食も平常は、スープ、肉料理、サラダと、チーズか菓子または果物ぐらいである。

[小林文子]

ワインVin

西洋料理は、料理とともにワイン類が供される。ワインによって料理をさらに楽しむことができて、食卓のワインは欠くことのできないものである。ワインの種類は多く、それぞれの料理に適したものを選ぶことによって、料理との調和の粋を味わうことができる。

(1)オードブル 白ワイン、とくに辛口の白ワインは酸味があって無難である。

(2)スープ スープにはワインを省いてもよい。用いる場合はロゼワインか白ワインがよいが、前菜のワインをそのままスープとともに飲み続けてもよい。また、シェリーをスープの中に入れて食するのもよい。

(3)魚料理 ソースをあまり使用していない簡単な魚料理には、白ワインまたはロゼワインがよい。濃厚なソースを使用した魚料理には、酸味、芳香に富むこくのある上質の白ワインが望ましい。

(4)肉料理 子牛、子羊、豚肉などのロースト、土鍋(どなべ)料理などには、軽いタイプの赤ワイン、ロゼワインがよい。ビーフステーキローストビーフ、鉄板焼き、バーベキューなどの赤身肉には、こくのある赤ワイン、とくに熟成された赤ワインの上等品がよい。白身肉には、赤身肉よりも風味のあるワインがあう。

(5)家禽(かきん)・野禽(やきん)類 シチメンチョウ、ニワトリなど家禽類のロースト、煮込み料理などには、軽いタイプの赤ワインか中程度のものがあう。脂肪の多いものには、渋味とこくのある上等の赤ワインがよい。野禽類には赤ワインでも渋味の強いものが最適であるが、比較的柔らかい野禽肉には、少し軽いタイプの赤ワインがあう。

(6)チーズ フランスでは食事の締めくくりはチーズである。食事中飲んだ赤ワインでもよいのだが、とくに晩餐の内容によっては、そのチーズに最適のワインを飲みたいものである。カマンベールなどの柔らかいチーズには熟成した赤ワインがよい。クリームチーズには甘口の白ワインやロゼワインが望ましい。プロセスチーズには白ワインの辛口やロゼワイン、または赤ワインの渋い熟成したものがあう。

(7)果物、デザートとワイン プディング、洋菓子、アイスクリームなどには、甘口の白ワインまたはシャンパンがよい。

[小林文子]

珍味

フランスにはフランス各地で選び抜かれ、育てられてきた珍味があり、フランス料理をさらに世界に誇りうるものにしている。

(1)フォアグラfoie gras ガチョウの肝臓。フォアとは肝臓、グラは脂肪のことで、脂ののった肝臓のことである。上等のブランデーやワインなどに漬け込んで料理に用いることが多い。高価な世界的珍味の一つである。

(2)トリュフtruffe セイヨウショウロというキノコで、球形で色は黒く、とくにペリゴール地方産のものは品質も上等である。これは土の中でできるもので、ブタやイヌなどを訓練してその嗅覚(きゅうかく)を利用して掘るという珍しい採集法をとっている。非常に高価なものだが、香りが強いので、エスカルゴ、肉類、エビなどに調和する味をもっている。高級料理のつけ合せや飾りなどに用いられる。

(3)エスカルゴescargot 食用カタツムリのことで、ブルゴーニュ地方に産するものが最良品とされる。殻付きのままゆで、身を取り出し種々の料理に使う。一例をあげると、殻に詰めたエスカルゴの上に、バターにパセリとレモン汁を練り混ぜたものを置き、殻ごとオーブンで焼いた料理がある。身を出すための特別なカタツムリ専用のさじもある。

[小林文子]

地方料理

フランスの国土は地中海と大西洋にまたがり、温和な気候と風土に恵まれて、農産物、畜産物、水産物とも豊富である。各地方に産するこれらのよい素材によって、世界に名高い名物料理がつくられている。

(1)プロバンス地方 この地方にはオリーブ油、ニンニク、トマトを用いた料理が多い。魚貝類をサフラン、トマト、ニンニク、オリーブ油で調理したブイヤベースは、この地方の代表的な鍋(なべ)料理で、世界的に有名である。

(2)アルザス地方 ドイツに隣り合ったこの地方には、ドイツ料理に近いものが多い。シュークルート・ガルニは、シュークルート(糸切りキャベツの塩漬け)をソーセージやブタの塩漬けとで煮上げたもの。フォアグラも有名である。

(3)ロレーヌ地方 この地方が起源とされるパイ料理の一種、キッシュがある。

(4)リヨネーズ地方 オニオン・オー・グラティネ(タマネギのスープグラタン)など、おいしいスープがつくられる。また、リヨン風とよばれる料理には、ほとんどの場合タマネギが使われている。

(5)パリ周辺 パリを中心としたイル・ド・フランスには、あらゆる地方の料理が集まっている。各種の野菜栽培が行われ、野菜料理が発達している。

(6)ラングドック地方 ポトフ(牛肉の塊とニンジン、ポロネギ、カブ、ジャガイモなどのスープ煮)や、ザリガニのスープなどが代表的な料理である。この地方ではオリーブ油とニンニクを使った料理が多い。

[小林文子]

テーブルマナー(食事作法)

 食事作法とは、食事を順序に従って、美しく楽しく食べるマナーである。他人に不快感を与えず、自分も楽しくすることである。

(1)オードブル 多くは献立の初めに出て、控室でカクテルなどとともに給仕されることが多い。食卓では、美しく盛り付けた大皿を給仕人が持ち回る。大きなフォークとスプーンを添えてあるので、スプーンを右手にフォークを左手であしらいながら皿にとる。いちばん外側のナイフ、フォークでいただく。

(2)スープ スープからが料理コースである。大きなスープ容器に入れ、スプーンを添えて運ばれるので、各人がスプーンを右手にとって1杯半ぐらいの量をスープ皿に注ぐ。浮き身は別に給仕人が持ち回ることもある。右手でスープスプーンを持ち、左手はスープ皿の縁に添えて、先方から手前に向けてスープをすくい、口にはスプーンの先から上手に流し込む。イギリス風では手前より向こう側へすくい、口の高さまで持ち上げてスプーンの丸い部分を唇にのせ、口の中に流し込むようにする。皿の中のスープが少なくなったら、フランス風だと皿を手前に、イギリス風は皿を先方に傾けて、スープを口に運ぶ。

(3)魚料理と肉料理 魚や肉は左の端をフォークで刺して、ナイフで少しずつ切り取り口に入れる。

(4)サラダ料理 正餐の献立では、サラダ用皿と専用フォーク、ナイフが用意されている。給仕人がサラダボウルに生野菜(主としてレタス)を入れ、ソースとともに供する。

(5)チーズ、果物類 食事の終わりには、チーズや果物が出る。このときに、銀器またはガラス器に入れた水を出す。銀器をフィンガーボウルというが、指先を洗うために用いるのである。

 最後にコーヒーや消化促進酒は食堂または客間で出される。食後のコーヒーには、砂糖を入れても牛乳やクリームは入れないのが正しい。砂糖が角砂糖なら、カップに早く入れておく。泡が出終わるまでは、スプーンでかき回してはいけない。ナプキンはあまりきれいに畳まず、食事が済んだらそっと卓上に置く。食事がすっかり終わったら、主人は客にできるだけ上等のたばこを勧めることが礼である。それまでは、会食者は絶対にたばこは控えねばならない。食事が終わり、コーヒーも喫し、いちおう談話が終わったら、会食者は機をみて挨拶(あいさつ)して帰る。

 会食では、以下のことに注意する。

(1)ナプキンは全員が着席してから膝(ひざ)の上に置く。

(2)足は組まないこと。肘(ひじ)はつかないこと。

(3)ナイフ、フォーク類は外側から順に使う。食べるのを休む場合は、皿の縁に八の字形にかけて置き、食べ終わったら、ナイフは刃を内側に、フォークは先を上に向けて、皿の右に斜めにそろえて置く。

(4)談話は明るい話題を選び、宗教上の話や堅苦しい会話は避けること。

(5)食事中は席を離れないよう心得ること。どうしても中座する必要がある場合は、ナプキンをかならずとって椅子(いす)に置く。

(6)みだりに大声で話さないようにする。

(7)食卓のパンは指先で目だたぬようにちぎって、バターをつけて食べる。

(8)食事中は音をたてないように食べること。

 そのほか、服装なども会食にふさわしいものを控え目に選ぶのは、おくゆかしいことである。

[小林文子]

『イブ・チュリエ著、辻静雄監修『日本版フランス料理百科』全3巻(1986・白水社)』『小野正吉著『小野正吉フランス料理 1~3』(1981~85・柴田書店)』『クエンチン・クルー著、木場巳雄・小野村正敏訳『フランスの大料理長たち』(1983・三洋出版貿易)』『ブリア・サバラン著、関根季雄・戸部松美訳『美味礼讃』上下(岩波文庫)』『フランソワ・ルリ著、小松妙子訳『フランス料理』(白水社・文庫クセジュ)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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