〈現実性〉〈現実態〉〈現勢態〉〈現実活動〉などと訳される。〈デュナミスdynamis〉(〈可能態〉〈潜勢態〉。ただし一般的な意味としては〈力〉〈能力〉)と対比して,可能性が実現していることを表す用語としてアリストテレスがはじめて用いた。その語義は〈エルゴンergon〉(仕事,活動,またはその成果,作品)から派生したもので,現に活動しているという動的な現実も,完成されてあるという静的な現実も示す。〈エンテレケイアentelecheia〉(完成態,完全現実態)とも事実上同義で多く互換的に用いられる。彼は技術による製作も自然界の生育も,ともに可能態=質料(素材)から目的としての現実態=形相への移行としてとらえる。またその移行である〈動〉(運動,変化)そのものは,〈動かされうるものの動かされうるという資格での現実態〉と定義され,最終的な完成にいたっていないという意味で〈不完全な現実態〉とも呼ばれる。魂は身体の〈第1の現実態〉として規定され,魂の能力の行使が第2の現実態にあたる。また人間の幸福も,単なる状態(ヘクシス)と区別された現実活動(優れた能力の行使)とされる。一般に可能から現実への移行には,すでに現実態にある別の存在が必要とされ,天体の運動をも含めたすべての動の究極的根拠となる〈不動の動者〉としての神のあり方も純粋な現実活動として述べられる。このように〈エネルゲイア〉概念はアリストテレス哲学の多くの重要な場面で大きな役割をになわされていた。また現代語〈エネルギー〉の語源でもある。
執筆者:藤澤 令夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…彼の〈形相〉はそれと異なり,つねに〈素材〉と対をなし,具体的な個物のうちに(規定の言葉(ロゴス)において以外は)素材と切り離せないものとして結びついているものである。この〈形相〉〈素材〉はまた〈現実態(エネルゲイア)〉と〈可能態(デュナミス)〉とにそれぞれ対応する。たとえば素材としての木材は家の可能態であり,大工によって形相を与えられて現実の家となる。…
…さらに彼はこの形相―質料という対概念を,みずからの生物学研究から得られた〈発展〉の考えを媒介することによって,いっそう動的な現実態―可能態の対概念としてとらえかえす。〈現実態(エネルゲイア)〉とはそうした発展の究極の〈目的〉としての形相を実現した状態であり,〈可能態(デュナミス)〉とはそうした形相をいまだ実現せず,それを内に潜在的に秘めている状態である。一般に〈運動変化(キネシス)〉とはこうした可能態から現実態への移行であり,自然はそうした運動変化の原理をみずからのうちにもつものであり,一定の目的に向かってその形相を実現すべくすすむ。…
…この方が事態の本質をいっそう深く洞察していると言えよう。
【現実態(エネルゲイア)と可能態(デュナミス)】
もっとも,プラトンによって導入された形而上学的思考様式は,まったく無抵抗に受けいれられたわけではない。こうした伝統に逆らって,〈自然〉を生きたものとして見ようとする思想は西洋哲学の底層部につねに伏在しており,折あるごとに顔をのぞかせる。…
※「エネルゲイア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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