エピクテトス(読み)えぴくてとす(その他表記)Epiktētos

デジタル大辞泉 「エピクテトス」の意味・読み・例文・類語

エピクテトス(Epiktētos)

[55ころ~135ころ]ストア学派哲学者。奴隷であったが、のちに解放された。理性的な意志の力によって不動心境アパテイア)に達すべきことを説いた。死後弟子が講義集録「綱要」などをまとめた。

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精選版 日本国語大辞典 「エピクテトス」の意味・読み・例文・類語

エピクテトス

  1. ( Epiktētos ) 古代ローマの後期ストア派哲学者。はじめ奴隷であったが、のちに解放される。外的なものにとらわれることなく、理性にもとづく意志の力によってアパテイア(情念に乱されぬ境地)にいたるべきことを説いた。弟子の筆録した「語録」と「提要」がある。(五五頃‐一三五頃

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エピクテトス」の意味・わかりやすい解説

エピクテトス
えぴくてとす
Epiktētos
(50?―138?)

ローマ帝政時代のストア哲学者。小アジアフリギアの生まれ。ローマの奴隷の身分でありながらストア哲学を学び、のちに解放された。90年ごろギリシア西海岸のニコポリスに移り、学校を創設した。著作はなく、弟子アリアノスLucius Flavius Arrianus(87―145)の筆録した『語録』Diatribaiと、それを要約した『ハンドブックEncheiridionが残存する。エピクテトスの立場をもっともよく表すのが「忍耐せよ、断念せよ」という標語である。「われわれのものと、われわれのものに非(あら)ざるものとがある」と彼はいう。われわれの判断や欲望や行為はわれわれの自由になるが、身体、財産、名声、権力などは必然によって支配され、われわれの力ではどうにもならないものである。このありのままの「自然」を認識し、われわれの意志をそれに一致させるための修練が哲学である。かくして、「私は神とともに選び、ともに欲し、ともに意志する」と唱えた。彼の影響は、同じストア学派のマルクス・アウレリウスをはじめ、キリスト教の教父たちや、近世のパスカルなどにまで及んでいる。

[田中享英 2015年1月20日]

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改訂新版 世界大百科事典 「エピクテトス」の意味・わかりやすい解説

エピクテトス
Epiktētos
生没年:55ころ-135ころ

ローマ期のギリシア人哲学者。古代ストア学派の哲学を伝える数少ない断片を残している。奴隷の子として成長したが,向学心があったため,主人は当時の有名なストア哲学者ムソニウス・ルフスMusonius Rufusのもとに弟子入りさせ,後に解放してやった。初めローマで哲学を講じていたが,86年ドミティアヌス帝の哲学者追放令によってギリシアのニコポリスに行き,そこで教団を開いて生涯を終えた。生涯,著作を書かなかったが,弟子のアリアヌスが師の言行を伝える《語録》と《箴言》を残している。それらがローマ皇帝マルクスアウレリウスに与えた影響は甚大なものがある。彼はストア精神の源流に帰ろうとし,ソクラテスシノペディオゲネスの生き方を手本とした。人間が完全に自由に支配しうるのは自分の意志しかない。これは父なる神からの最善のたまものなのである。この意志を外的なものによってねじまげられてはならない。つねに自分のできることとできないことを弁別すべきであり,できないものを追求するところに,あらゆる不幸の原因がある。〈心にとめなければならない二つのことがある。一つは意志を離れては善いものも悪いものもないということ,二つはできごとを予期したり支配しようとしてはならず,理性によってそれを受けいれなければならないということである〉。この諦念に達したとき初めて,人は神の偉大さに気づき,その摂理に従うことによって,真の幸福にあずかることができる,とするのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エピクテトス」の意味・わかりやすい解説

エピクテトス
Epiktētos

[生]50頃.フリュギア,ヒエラポリス
[没]?
ストア派の哲学者。初めネロの重臣の奴隷,解放されてからドミチアヌス帝による哲学者追放までローマで哲学を講じ,のちニコポリスにおもむく。弟子アリアノスによる『談話集』と『提要』があり,マルクス・アウレリウスらに影響を与えた。その学説は初期ストア派にほぼ同じで,さまざまな専門的知識や技術,神の摂理,現世の苦痛に対する無関心と,人間として必要な哲学の意義を説き,人みな神の子という立場から博愛主義を唱えた。その哲学は意志の哲学であり,自己の支配能力が及ぶ意志的活動と,その権能外にある社会的なものとの区別を心得て,一切の苦悩から自由となり心の内に平静を獲得することをすすめている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「エピクテトス」の解説

エピクテトス
Epiktetos

55頃~135頃

ローマ時代のストア学派の哲学者。小アジアのフリュギア出身の奴隷としてローマに住み,のち解放されて自由人となる。ドミティアヌス帝に追放され,ギリシア北西部に移る。自然の法則に合致した生活により魂の自由を得ることを説いた。弟子アリアノスの編集した『語録』が伝わる。

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百科事典マイペディア 「エピクテトス」の意味・わかりやすい解説

エピクテトス

ストア学派のギリシア人哲学者。もと解放奴隷で,師はムソニウス・ルフスMusonius Rufus。《語録》と《箴言》が残り,意志を離れてはすべてが善悪無記であること,理性による不動心の獲得などを説いた。哲人皇帝マルクス・アウレリウスへの影響大。

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旺文社世界史事典 三訂版 「エピクテトス」の解説

エピクテトス
Epiktetos

50ごろ〜120ごろ
帝政ローマ時代のストア哲学者
小アジアのフリギア生まれ。ネロ帝の家臣の奴隷で,解放されたのち,ローマで哲学教師となった。禁欲的訓練による人格育成を強調し,運命に安んじるところに幸福があると説いた。その『語録』は弟子がまとめたもの。

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