日本大百科全書(ニッポニカ) 「エル・エスコリアル」の意味・わかりやすい解説
エル・エスコリアル
えるえすこりある
El Escorial
スペインのフェリペ2世(在位1556~98)が建造した大建築。正式にはEl Monasterio de San Lorenzo el Real de El Escorial(エル・エスコリアルの聖ロレンソ王室僧院)とよぶ。マドリードの北西約50キロメートル、グアダラマ山脈の南斜面がカスティーリャの中央にあるメセタ平原へとかかる、標高約1000メートルの地点にある。縦・横約200メートルの直線で構成され、修道院のほか、カルロス1世(カール5世)以降のスペイン歴代王の霊廟(れいびょう)、王家の憩いのための離宮の3部からなり、これらを主宰するように、中央に円型ドームを頂く大聖堂が位置する。
スペインの首都をトレドからマドリードに移したフェリペ2世が、1563年から二十数年を費やして完成。基本設計はミケランジェロのもとで修業したJ・B・デ・トレード(?―1567)が手がけ、ファン・デ・エレーラ(1530―97)が引き継いで発展させた。ヨーロッパ最強国の栄光をみごとな量感に、反宗教改革運動(コントラレフォルマ)の精神的拠点としての権威をストイックで硬質な線に、瞑想(めいそう)と孤独を愛した王の性格をメランコリックな情趣に反映したこの大建造物は、古来賛否両極端の美的判断があり、陰うつな暗さを批判する向きも多い。ルネサンス風の図書館をはじめ、当時は文人僧、工匠、音楽家などの活動を擁し、世紀を代表する文化センターでもあった。以後、フェリペ4世時代(在位1621~65)にパンテオン、カルロス4世(在位1788~1808)のときにブルボン朝王宮など、19世紀までに各時代を記念する仕事が加えられた。1584年(天正12)には日本の天正(てんしょう)遣欧使節もここを訪れている。1984年に世界遺産の文化遺産として登録されている(世界文化遺産)。
[富永ひろし]