日本大百科全書(ニッポニカ) 「エールステッド」の意味・わかりやすい解説
エールステッド
えーるすてっど
Hans Christian Oersted (Ørsted)
(1777―1851)
デンマークの物理学者、化学者。ラングランド島で薬剤師の長男として生まれる。1794年コペンハーゲン大学に入学、薬学を学んで1797年に卒業。1801年から、ボルタによる電池の発明に沸くヨーロッパ各地に遊学、1804年に帰国して、1806年コペンハーゲン大学の員外教授、1817年に正教授となった。
大学生のころからカント哲学に傾倒し、カント哲学を普及するための雑誌の編集に参画、学位も、自然哲学に対するカント哲学の意義を論じた論文で取得した(1799)。多様な自然を「力」という概念で統一的にとらえようとするカント哲学の一面は、F・W・J・シェリングに代表されるドイツ自然哲学に継承されたが、エールステッドは、シェリングの自然哲学に傾倒していた化学者J・W・リッターやウィンタールJ. J. Winterl(1739―1809)の思弁的性格の濃い研究業績を高く評価していた。しかし遊学からコペンハーゲンに戻るころには、実験や観察の重要性も理解するようになり、1812年までにはウィンタールやリッターの学説を放棄してしまった。しかし、自然界のさまざまな「力」の間に統一があるという観念への確信だけは揺るがなかった。電流と磁気の関連を追究し、1819~1820年に、導線中を流れる電流が近くの磁針を振らせる現象(電流の磁気作用)を発見した背景には、こうした観念があったのである。この発見を機に、アンペール、ビオ、ラプラスらが電気力学を発展させた。エールステッドはこのほかに、気体・液体の圧縮性や反磁性について研究し、またコショウからピペリンを単離したり、不純ながらもアルミニウムを分離することに成功した。さらに、科学振興協会を創設したり、コペンハーゲンに工科大学を設立することによって、デンマークの科学研究の水準を高めることにも貢献した。童話作家アンデルセンをさまざまな面で支援したことも、彼の功績の一つである。磁界の強さの単位エルステッド(記号Oe)は彼の名にちなむ。
[杉山滋郎]