日本大百科全書(ニッポニカ) 「オナガザル」の意味・わかりやすい解説
オナガザル
おながざる / 尾長猿
広義には、哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科に属する動物をさし、狭義にはそのうちのオナガザル亜科をさす。同科Cercopithecidaeのサル類は、サハラ砂漠を除くアフリカと、アラビア半島の狭域、パキスタン以東のアジアに分布し、旧世界ザルともいう。
で合計32本というヒトと同じ歯式で、臀だこがある点で中央・南アメリカのオマキザル上科Ceboideaと区別され、尾がある点でヒト上科Hominoideaと区別される。オナガザル科は、オナガザル亜科Cercopithecinaeとコロブス亜科Colobinaeに大きく二分され、普通、前者をオナガザルとよぶ。オナガザル亜科は、アフリカの森林にすむオナガザル属Cercopithecusとマンガベイ属Cercocebus、おもにサバナと森林にすむヒヒ属Papio、アジアに分布するマカック属Macacaの4グループに大別され、いずれも頬(ほお)袋がある点でコロブス亜科と区別される。多くの種はずんぐりとした体格で、食性は比較的幅広く、植物性食物を中心に、昆虫や鳥の卵も食べ、とくにヒヒはレイヨウの幼獣やウサギをとらえて食べることがある。
オナガザル属とマンガベイ属の種は樹上性で、小形の単雄群をつくる例が多いが、ヒヒ属とマカック属は地上性の傾向が強く、大形の複雄群をつくる。前の二者は、特定の雌雄間の結合を永続化しようとし、後の二者は一つの集団に個体をより多く収容しようとするという、一見相反する方向に進化してきたとみることができるが、両者とも雌は自分が生まれた群れを離れず、雄が離れる。つまり群れは母系集団であるという点で共通性がある。群れを離脱した雄は、他の群れに接近してその雌と性関係をもったり、それに加入して数年間を過ごす。このような社会の形態は、雌が生まれ育った出自集団を離れるショウジョウ科Pongidaeの社会とは対照的である。多くの種は群れという単層の構造をもつにすぎないが、ゲラダヒヒTheropithecus geladaとマントヒヒPapio hamadryasの2種は、それより上位または下位の構造をもつ。つまり重層的な社会構造が認められる点で注目される。なお、もっとも狭義には、「オナガザル」の語はオナガザル属をさすが、混乱を避けるため、オナガザル属はグエノンとよぶほうがよい。
[川中健二]