アリストテレスの論理学書の総称。原義は道具、器官の義で、知識の構造や論証法を論ずる論理学が学問研究のための道具であるという意味から、これらがこの名でよばれるようになった。『カテゴリア論』Categoriae、『命題論』De Interpretatione、『分析論前書』Analytica Priora、『分析論後書』Analytica Posteriora、『トピカ』Topica、『詭弁論駁論(きべんろんばくろん)』De Sophisticis Elenchisがこれに含まれる。存在論に基づく伝統的論理学の基礎がこれによって確立されるとともに、後代の形式論理学の端緒もここにあった。長くこれらの書は学問研究の基礎として尊重されたが、F・ベーコンの『ノウム・オルガヌム』はデカルトの『方法序説』とともにこれに挑戦するものであった。『カテゴリア論』は語を分類し、語、または、語によって指示される存在者の最大の類として10個の「カテゴリア」(範疇(はんちゅう))を区別する。「実体(ウーシアー)」「量(ポソン)」「性質(ポイオン)」「関係(プロス・テイ)」「場所(プー)」「時間(ポテ)」「状態(ケースタイ)」「所有(エケイン)」「能動(ポイエイン)」「受動(パスケイン)」がそれである(カテゴリアの種別はアリストテレスの哲学の基本前提の一つであり、多くの著作で反復されるが、変わらないのは最初の4種であり、他のカテゴリアについては種類も数もかならずしも一定しない)。「カテゴリア」は文字どおりの意味では「述語」であって、その種類とは、ことばが存在者を述べ表す場合の「述べ方」の種類である。この述べ方、または述べられる事柄の種別を明らかにするのがこの論の目的であるが、とりわけ実体を表す語と他の語の別、したがって、アリストテレス存在論の基本前提である存在者(オン)の成り立ちにおける実体の基本性を明らかにすることに、その主要な関心が向けられていたということができる。この書の真作性はときに疑われることがある。しかし、ポルフィリオスの『カテゴリア論入門』を通じて中世の論理思想の形成、およびその後の論理学の発展に大きな影響を及ぼした。『命題論』は語と語の複合によって生ずる文(ロゴス)、命題(プロタシス)の成り立ち、性質を論ずる。『分析論前書』は三段論法の形式を分析、枚挙する。様相論理の開拓に力が注がれている。『分析論後書』は論証科学の構造を分析する。『トピカ』は弁証論の推論を論ずる。この書は初期の著作とみなされる。『詭弁論駁論』はソフィストの用いる誤謬(ごびゅう)推論を論ずる。
[加藤信朗]
〈道具〉〈手段〉〈器官〉を表すギリシア語であるが,現代の各国語では〈科学の方法,道具〉という意味をもつ。このような意味の特殊化は,アリストテレスの論理学書《範疇(はんちゆう)論》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ》(《詭弁論駁論》を含む)が後世の編集において〈オルガノン〉の名の下に総称されたという歴史的経緯による。アリストテレス自身は彼の論理学的業績が自分の学問体系の中で占める位置を明示していないが,後世のギリシア人編纂者たちがそのような論理学を自然学,動物学,数学,さらには形而上学の体系を構成するための〈道具〉と考え,この名を与えたことは明らかである。アリストテレスの形而上学を神学の基礎と考えた中世ラテン世界においては,初期に伝来した文献が《範疇論》《命題論》に限られていたという事情もあり,もっぱら論理学が,とくにその他の文献を参照しえた後期においては三段論法を中心とする形式論理学が,学問の基礎,とりわけ思弁的な学問の道具と考えられていた。このように形式化した学問の不毛をその方法論,すなわちオルガノンの責任と考えたのが,F.ベーコン,デカルトとその学派に属するポール・ロアイヤルの論理学者たち,コメニウス,ホッブズらルネサンスの思想家たちである。とくにF.ベーコンは《ノウム・オルガヌム》を著し帰納論理の必要性を説いた。しかし彼らとても,その基礎に置いていたものはアリストテレスの三段論法であり,そのような形式的論理がその形式性ゆえに,経験的な知識獲得の手段たりえないことは,カントに至ってはじめて認識されたのである。カント以降,学問の道具としてのオルガノンを求める営みは,帰納論理,アブダクションabduction,仮説帰納法など種々の形で繰り返されてはいるが,かつてのように普遍的に受け入れられたものとして定着したものは存在していない。
執筆者:土屋 俊
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…記号論理学【坂井 秀寿】
【論理学の歴史】
[ヨーロッパ]
ヨーロッパ論理学の歴史は古代,中世,近世,近・現代に4分される。(1)古代――古代論理学は前4世紀にアリストテレスが著した《オルガノン》で始まる。オルガノンとはすべての学問のための道具のことであり,実質的には論理学のことである。…
…パイプと送風器と鍵盤の三つの部分から成る気鳴楽器。語源はギリシア語のオルガノンorganon(〈道具〉の意)に由来する。使用目的,設置空間の大小によりさまざまな規模のものがあるが,大別すると,運搬可能なものと建築物の中に固定されたものに分けられる。…
… 我々がふつうに使う〈楽器〉の概念は,ヨーロッパ系言語の〈インストルメント〉または〈オルガノン〉に相当する。前者は道具を意味するラテン語instrumentum,後者は器官を意味するギリシア語organon,ラテン語organumに,それぞれ由来する。 ヨーロッパではルネサンス以後,音楽を人間の声による声楽と楽器による器楽とに大別してきた。…
…パイプと送風器と鍵盤の三つの部分から成る気鳴楽器。語源はギリシア語のオルガノンorganon(〈道具〉の意)に由来する。使用目的,設置空間の大小によりさまざまな規模のものがあるが,大別すると,運搬可能なものと建築物の中に固定されたものに分けられる。…
…しかし,音楽とは何か,また音楽的行為とは何かということは,民族,時代および文化によって異なるので,これらすべてに共通する楽器の概念を詳細に定義するのは困難である。 我々がふつうに使う〈楽器〉の概念は,ヨーロッパ系言語の〈インストルメント〉または〈オルガノン〉に相当する。前者は道具を意味するラテン語instrumentum,後者は器官を意味するギリシア語organon,ラテン語organumに,それぞれ由来する。…
… 中世には古代ギリシアの美的,功利的な比例観は薄れ,代わってキリスト教的な象徴主義が主流となり,三位一体を表す3や十二使徒を表す12などの数値を用いた単純な倍数系列が多く見られた。しかし12世紀以降は,ピタゴラス派の協和音程理論の比例数値により平面を決定した教会堂が現れており,これはノートル・ダム楽派の荘重な〈オルガノン〉の出現と軌を一にしている。同様に,華麗なフランボアイヤン・ゴシックと複雑精緻なリズムで構成される〈アルス・ノバ〉の音楽の出現も,密接な関連をもっている。…
※「オルガノン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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